それから、ぽつりぽつりだけどバクさんと話せるようになった。支部長は、アジア以外にも5つあるし、チャンだとエドガー博士もトゥイさんもいるからバクさんと呼ぶことになった。彼はお世話になった人たちの大切な息子だから、拒絶なんてできなかった。それに、バクさんは二人の影があって嫌うこともできなかった。出されたココアが冷えたころに、フォーがやってきた。
「なんだ、その様子だと打ち解けたのか?」 「……微妙」 「そうか」
フォーはドカリと僕の横に座った。「ウォーカーに聞いたぜ」ケラケラ笑いながら、フォーは口を開いた。いったい、なにを聞いたというのだ。アレンはなにを余計なこと喋ったというのだ。内容によっては怒る。
「お前、本部じゃ本当に喋らないらしいな。単語以外で」 「……」
僕は、なにも答えない。それを肯定の意ととったフォーは「馬鹿だろ」と呆れたようにため息を吐く。僕はなにも言わない。彼女が言いたいことは、自分が一番知っている。知っているけど、認めたくなくて、気づきたくなくて、無視した。ないものにした。
「お前はあれ以来、大事なものを失いたくなくて独りでいようとした。周りを拒絶した。それは、裏を返せばお前は大事なものを守る力が人一倍ある。そんなお前が独りでいたら強くなれるわけないだろ」 「知って、る」 「無理して独りになろうとすんな。村のことも、アジア支部のことも、全部お前のせいじゃねえ」
乱暴に頭を撫でられた。髪がぼさぼさになる……。上目で彼女を見てみれば顔をほのかに赤くしていた。本当に優しい、な。
「ありがと、フォー」 「ふん。礼の言われることはしてねーよ」
ぶっきらぼうなフォーを見て、少し顔を緩めてしまう。心が軽くなった。大丈夫、もう僕は自分を認めてくれる人を、大切に思ってくれる人を拒絶したりしない。失ったときの悲しみや虚無を感じたくないなら、皆を失わないように守るんだ。強くなるんだ。
「フォー。一つ、お願いがあるんだ」
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