狼娘物語 | ナノ



僕は、リーや兎みたいに空を飛べるイノセンスではない。だから、走るしか移動手段がないのだ。ショートカットのために屋根から屋根へ飛んで走った。その間に、見えていた白い塊……スーマン・ダークの咎落ちの姿が見えなくなった。時折現れた光線のものも現れなくなった。最悪な状況が目に浮かんで心臓がドクリと大きくなる。早く、早く、早く着くんだ!足を大きく速く動かして森をかけぬける。ザッと足をとめる。

「アレンッ!!」

目に映った光景に対して、反射的にアレンの名を叫ぶように呼んだ。褐色色の男が、アレンの胸を貫いているのだ。「花火…?」アレンは、目を見開いて僕を見る。意識は…鮮明にある?よく見れば、貫かれているところから血はでていない。貫いたはずの男の手にも血は付着していない。……つまり、アレンの胸には傷がない。その瞬間、目の前にいる男を把握した。それと同時に増大な怒りがこみあがった。

「お前が……」
「ん?」
「お前がデイシャを殺ったのか!!」

僕の怒鳴り声でビリビリと空気が震えた。男はパチクリと目を瞬かせてきょとんとする。アレンは僕がこんな表情をすると思っていなかったのか、驚いた表情をしている。

「(漆黒の髪と透き通るような瞳……)アンタが炎狼花火か?」
「だったら、何」
「へえ、アンタがねえ」

男は目を細めてアレンから手を抜き取る。「いやあ、意外だな」と笑う。僕は眉間にしわを寄せる。それを見て、男は笑みを深くして「もっと冷たい奴かと思ったぜ」と馬鹿にするように言った。

「僕が、怒ることをしない奴だと思った?」
「あぁ。ロードとリルの話じゃな。怒鳴られると思ってなかったし、饒舌に話してもらえるとも思ってなかったな」

「そう」短く返し、シュルルッと炎架を垂らす。それから、男を睨みつけ「だったら、気をつけたほうがいいよ」と忠告するように口を開く。

「僕が他人に饒舌なときって、本気で怒ってるときだから!」

ダッと地を蹴って駆け出す。「お、直行?」と馬鹿にするように笑う男。僕は、そんなにまっすぐな奴なわけない。相手の手が届くかどうかぎりぎりのところまで近づいて、グッと急ブレーキをかけて後ろに飛びのく。その反動で下に散らばっていた落ち葉や泥が男にむかって跳ねる。「いっ」泥は狙い通りに目のなかにはいった。一瞬の隙をついて、僕はギュルンッと音を鳴らして炎架を男に巻き付ける。そのまま、気を緩めずに一気に締め上げた。



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