狼娘物語 | ナノ



通信を終えてしばらくしてから僕は汽車のなかに戻った。どうやらリーは兎と話しているらしく、ゴーレムに向かって喋っていた。そしてその後ろで何故か煙草を吸ってるティム。ゴーレムのくせになにやってるんだよ。数分後に通信が終わった。僕に気がついたリーは「お帰りなさい」と少し気まずそうに言う。

「兎?」
「えぇ、なんでもクロス元帥が伝言を残してたらしくて」

その本人とつい数分前に会話をしていましたが何も聞いていません。少しくらい教えとけよ!と突っ込みたくなったがぐっと堪える。僕が普通にクロス師匠と通信できるのは秘密事項だ。知られたらどう利用されるか分かったもんじゃない。少なくともリーはそんな子じゃないだろうけど。

「吸血鬼が現れるんですって」
「……ホラーちっく」

今兎についていかなくてよかったと心底思った。そんな噂が流れてるところに言ったら間違いなく泣く。人目がなんだろうが関係なく泣く。リルに助けを求めるくらい。いや、比喩じゃなくて本気で。

「吸血鬼、ねえ……」

そういえばなんかいた気がする。クロス師匠の友人カテゴリーに入る者の中で吸血鬼だのなんだのと言われてる人がいるとか。確か食人花赤ちゃんをクロス師匠に預けた人だった気がする。ちなみに愛称はロザンヌ。僕にはすぐに噛み付き、クロス師匠にはでれでれするムカつく花。短い期間だけど世話を任されていたが、途中で僕が怒って噛み付いてくるロザンヌを黙らせた記憶がある。僕の記憶と今回関連している人が一致してたりするならば、おそらく人間だろう。

「アレン君たち大丈夫かな……。吸血鬼に噛まれるとその人も吸血鬼になるって言うし」
「それさ、吸血鬼の血は人間に害をもたらすからなんだよね。その血に抵抗しようとして人間の身体が急激に作り変わり、負ければ人間のまま死亡。勝てば吸血鬼となり生存。そう考えるとアレンはイノセンスの寄生があるから大丈夫じゃない?」
「そうなの?だったら安心ね!」
「(この二人は吸血鬼を信じとるのか……)にしても花火嬢は詳しいのだな」
「昔書物で読んだから」
「えっと昔って……」
「リルはもう死んでたから五歳前半くらい。僕の家、悪霊亡霊その他の魑魅魍魎とか取り扱うからそういう類の本多かったんだよね。だから幼少の子が読む絵本の代わりに妖怪の図鑑とかそんなのばっか読んでた」

今思えばそんな家で育ってきたのにホラーが嫌いとはおかしな話だよね。あ、実在していると知っているから怖いのかもしれない。まあ人間が作ったものは本物とかけ離れていることもあるから現実味がなく、それでも本当は実在する。まだ僕が見たことないだけと思えるからかもしれない。そんなことをうんぬん考えているとリーが僕を見て優しく笑っていることに気付いた。「なに?」と怪訝に聞けば「花火の口から昔話が聞けると思ってなくて」と嬉しそうに言う。

「……言うんじゃなかった」
「えー、私はもっと知りたいのに!」
「知らなくていいでしょ」
「……じゃあクロス元帥に会ったら聞くわ」

思ってもいなかった反撃に僕は言葉をつまらせる。あの人ならべらべらと余計なことまで喋りかねない。相手がリーなら尚更。僕とリーを天秤にかければ絶対に女からみても可愛くて綺麗だと思うほど容姿がいいリーを優先するに決まってる。

「最終手段、クロス師匠沈める」
「いや、無理でしょ」
「人間、極限状態に持ち込まれればなんでもできる」

そう、僕だってやれば出来るはずだ。あのクロス師匠を沈めることだって。死と隣り合わせの方法だが頑張る。九死に一生スペシャル、ご期待ください的な。あ、なんかだんだんキャラが壊れてきたよ。

「とにかく、聞くな。聞くというなら室長にあることないこと言ってやる」
「あることないこと?」
「リーの好きな人は誰とか」
「そんなことしたら相手が可哀相なめに遭うじゃない!」
「最有力候補、アレン」
「聞かない!絶対聞かないからそれはやめてあげて!!」

その言葉に満足した僕は「絶対」と念を押した。よし、これからリーがしつこいときはこの手でいこう。このときだけ室長のシスコンに感謝する。常日頃はうざいと思うけど。「もうっ」と膨れっ面になって怒るリーを見て、可愛い子はなにをしても可愛いよね、と思う。「残念賞」と言えばリーは更に顔をむっとさせる。

「せっかく距離が縮まったと思ったのに!せめて名前くらい呼んでくれればいいじゃない!」
「いやだ」
「アレン君は名前で呼ぶじゃない」
「それ以外、呼んでない」
「それに、苗字だと兄さんと被るわ」
「コムイ・リーは室長、リナリー・リーはリー。問題ない」

そう言えば「確かにそうだけど……」と小さく呟く。ここで彼女に耳と尻尾があったらしゅんとしているのだろう。なくてもそう思える。

「僕、寝るから」
「じゃあ花火が寝てる間にどうやって名前で呼んでもらうか考えとくわ」

この兄妹は結構似ている。諦めが悪いところなんて特にだ。せいぜい頑張って、なんて声はかけない。それで本気で頑張られたらこっちが面倒だ。だから何も言わずに僕はフードを深くかぶって寝る体勢にはいる。意識が沈む前にリーの一生懸命考えて唸る声を聞いて僕は少しだけ、こういうのも悪くないと思った。そして考えを即座に否定するよう、僕は唇を噛み締める。

少しだけ縮む距離

(うーん、どうしたらいいのかしら?)
(リナ嬢はしぶといのだな)
(だって友達になりたい相手だもの)
(それに、この子は放っておくと本当にどこかに消えてしまいそうで)
(独りにさせたくないの)


 
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