狼娘物語 | ナノ



汽車の最後尾に辿り着いた僕は柵にもたれかかり、狼我からリユを取り出す。僕が外に出たのは空気が気まずくなったというのもあるが、なによりもリユが通信をきたと動いたからだ。相手の想像はつく。神田ユウは話したばかりだし、マリはその関係からありえないだろう。そう考えれば相手は一人しかいない。嫌だなと思いながら通信を繋げて先手必勝、「ご無沙汰しています」と喋る。ゴーレム越しから懐かしい笑い声が聞こえ、そしてお決まりの文句がでた。

【よお、弱虫弟子。元気にしてるか】
「普通。クロス師匠は聞くまでもなく元気そう」
【相変わらずの減らず口のようだな】

満足そうな口ぶりに思わずイラッとするが、深呼吸をして堪える。ここで文句を言ったってこの人にはなんのダメージにもならない。自分が疲れるだけだ。落ち着け。深呼吸を数回繰り返してから「何の用?」と本題にうつる。

【お前、俺の護衛任務にはいってるだろ】
「他の元帥に対してはそういう名目かもしれないけどクロス師匠のだけは"捕獲"です」
【んなこと言われてるのか?こっちは真面目に任務やってるっつーのによ】
「どの口で真面目とか言ってるんだ、どの口で」

任務のために動いているというのは知ってるけど真面目ではないだろ。真面目に任務をしてるなら内容が内容だから時間はかかるにしろ借金はここまで膨れ上がることはない。

「で、それがなんですか?」
【ほかに誰がいる?】
「正式なエクソシストからはアレン・ウォーカー、リナリー・リー。それとブックマンとブックマンJr.のラビですね」
【お前なら俺が言いたいこと分かってるだろうな?】
「邪魔だから引き返せとかそういうことですよね?目的地が江戸だからしかたがないと思いますよ。でもそんなこと言って引く相手じゃないと思いますよ、特にリナリー・リーは僕が行くと言えば一人にさせられないとか言ってついてくるだろうし、ブックマンたちは記録のため、それと今回の件はアレン・ウォーカーは必要不可欠じゃないですか。無理ですよ」

つらつらと言葉を並べて言うと【だろうな】と返事が返ってきた。分かってるならわざわざ言うな。そして通信をいれる理由にもならないだろう。じゃあ、なんでこの人は僕に通信を?不審な点がでてきたので気付いたら「何かあったんですか?」と尋ねていた。

【この間、ノアの奴らが俺に襲ってきた】
「……」
【その中にお前がよく知る奴がいた】
「リルですね。僕も最近会いました」
【大丈夫なのか】

それはどういう意味で聞いてるの?あちら側につくことはないよな、という確認?それとも戦えるのか、という確認?どちらにせよクロス師匠らしくない言葉だ。そういうときは横暴なことを言ってこそだろ。なにアンタが僕のこと心配してるんだよ。

「戦うときがこれば戦います。いくら大切な幼馴染が誘ってこようとも僕はあちら側にはつきません」
【本当だな】
「さっきから何心配してるような言葉をかけてるんですか?貴方らしくもない。なんならこう言って差し上げましょうか?僕はエクソシストに誇りとかはなんにももってないけど、クロス師匠の弟子には誇りをもっています。貴方が僕を見放さない限りはこちら側で戦いますよ」

だから下手に心配すんな。アンタはアンタらしく横暴なことを命令して、無茶振りかけてればいいんだよ。人の心配なんかしてるな。そんな意味合いをこめて言った。

【はっ、なに弱虫弟子が生意気言ってんだ】
「弱虫は弱虫なりに強がらせてもらいますよ」

開き直る。この人相手にはうだうだ言ってもしかたがないんだ。僕が弱いのは事実。少なくとも弱虫弟子を否定するには自分が元帥格に上がらないかぎり不可能だ。どう足掻いたって僕はこの人より弱いし、弟子であるしかないのだから。

【……強がりか】
「でも大丈夫ですよ。吹っ切れましたから」
【幼馴染を殺せるのか】

直球で聞かれた言葉に僕は一瞬だけ硬直した。次に何故か数時間前ほどに聞いた神田ユウの声を思い出した。あぁ、全く。この二人はなんでここまで僕を心配してくれるんだ。普段は人の扱いが雑で冷たいくせに。

「殺しませんよ。どんなに姿かたち、種族が変わってもあの子は大切な幼馴染ですからね」
【……】
「でも、あの子は死んでいます。もうこの世に存在しちゃいけないんです。だから成仏させます。炎狼花火の…陰陽師の名にかけて」

僕が出した答え。それは彼女を殺すのではなく、成仏させる。結局は同じことかもしれないが、僕にとっては大きな違いだ。

【上出来な判断だ】
「貴方の弟子なのだから当たり前です」

その言葉を否定することもなく【それもそうだな】と肯定する。この人はどんだけ自信家なんだ。自分が育てた弟子だから当然だと認めやがった。【無茶すんなよ】クロス師匠は言い逃げをするようにそれだけ言って通信を切った。

「……横暴だ」

修行期間中はあんだけ無茶しろとか、それくらいでオレの弟子が死ぬわけねえとか言っては無理難題押し付けてきたくせにここで無茶すんなとかありえない。彼の教育の所為でこの程度のことは無茶するのが当たり前だと身体の奥底まで染み付いてる。それを振り払ってまで無茶をするなとは横暴だ。横暴な言い分はあの人らしいけど。

「ま、死なない程度に無茶するけど」




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