狼娘物語 | ナノ



「何故、神田ユウに頼まれた?」
「……よっぽど心配だったんだと思うわ。花火と神田って本部に来る前から顔馴染みだったんでしょ?二人が本部で対面したその日に私に頼んできたの。"アイツのこと気にしてくれって"」

余計なことを!!これほどまでアイツに対して怒りを覚えたことはないと思う。記録更新だよ。「結局仲良いのね、二人とも」「よくない!」とリーの言葉に間髪いれずに否定した。なんだよ、アイツ。なんでそんなこと頼んでるんだよ。僕が独りで居たい理由も全部知ってるくせに……。

「最初はあの神田が言うんだからどんな子かと思ったんだけど、一目見てすぐに頼まれた意味を理解したわ。だって花火…目を離すと壊れてしまいそうなくらいはかなかったんだもの」
「……」
「花火ってさ、本当は独りでいるとか、暗いところとか怖いものとか嫌いでしょ?最初はね、無表情だから気付かなかったんだけど神田の様子を見てると案外分かるものなのよ。本部が停電したときとかあったじゃない、あのときとか神田はずっと花火を気にしてるし、花火だっていつもは神田に文句言ってるくせにそういうときは黙って一緒にいるし」
「……よく見てるね」
「だって二人とも、一匹狼って感じで皆と距離を置いてるくせに二人は結局一緒に居るじゃない。目につくのよ、日本人コンビで珍しかったし。なにより私自身が花火と仲良くなりたいと思ったし」
「なんで、僕結構突き放すように酷いこと言ってるよ」

リーが遠慮なしに神田と僕の観察の感想を話すものだから穴があったら入りたい気分になる。なんでこの人は余計なところまで見てるんだ。なによりもどうして、僕は近づかれないように酷い言葉を、傷をえぐるような言葉を言ってるのに仲良くなりたいなんて言うんだ。

「しょうがないじゃない。思っちゃったんだもの。それに、結局私が花火に対して思う感想が優しすぎる子になるんだもの」
「優しくない」

ララと同じことを言われて僕は即答する。優しくなんかない、本当に優しいというのは僕のことを指すんじゃない。

「本当に優しいというのはリルみたいな子を言うんだ」
「……リルってノアの子よね?」
「あの子は優しいよ、優しすぎる。あの子はね、本来僕と仲良くなるべき子じゃなかったんだ」

だけど僕に笑いかけてくれた。村の人の言葉に傷つき、でも泣きつく相手がいなくて独りで声を殺して泣いてたときに手を差し伸べてくれた。リルだけじゃなくて彼もだけど。

「ノアだろうがなんだろうが、あの子は優しいに変わりはないんだ。優しすぎる故に歪んだんだよ」

「もっとも、その兆候を4歳のころからだしてたのはどうかと思うけど」そう付け加えるとリーは「大切なんだね、あのノアの子」と優しそうに、どこか寂しそうに言った。それを誤魔化すことを僕はせずに「大切だよ。世界で二番目に」しれっと言えば「え、一番は?」と驚いたように声をあげられたので「冗談。僕の中で大切な人は一番を競う子が二人いるんだよ」と訂正する。

「(凄く嬉しそうな顔……)じゃあなんで今は無理して独りでいようとするの?」

真剣に、真っ直ぐと僕を見て問いかけられた。僕はこの目で真っ直ぐ見て問われるのが嫌いだ。誤魔化すことを僕自身が許さないから。真剣な表情で問われて誤魔化すというのは、その気持ちを無下にするということ。それを僕はやることができない。……つくづく悪人にはなれないんだよね。

「今まで、僕が大切だと思った人はことごとくいなくなった」
「それって……花火から去っていったってこと?」
「正確にはこの世からいなくなった」

リルも夢歌もお父さんもお母さんもアルマもエドガー博士もトゥイさんも……皆、いなくなった。僕が大切だと思ってすぐにいなくなった。

「僕さ、扱われ方が扱われ方だったから大切だと思ったら本当に大切で、依存みたいなことしてるんだよね。リルが僕に対する依存と比べれば可愛いものだと思うんだけどね。でも僕にとって人に対する感情は敵か無関心か大切な人なんだよ。ねえ、知ってる?本当に、心の底から慕って大切だと思った人が一人一人じゃなくて、同時に居なくなって、その度に独りにさせられるときの虚無感」

リーは俯いて小さく「ごめんなさい」と呟いた。「別にいいよ、僕だって触れられたくないことで責めたしね」と返す。でもリーは首を横に振って「ごめんなさい」と繰り返す。会話はここで途切れた。
僕は無言で立ち上がり、「ちょっと頭冷やしてくる」とだけ伝えて扉をあけて外の空気を吸うために足を運んだ。



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