狼娘物語 | ナノ



「花火ー!」と僕の名前を叫ぶ兎に対して「煩い」と呟きながら通信が終わって大人しくなったリユを狼我の中にしまう。

「久しぶりに泣いた」

自分でも吃驚だ。いくら混乱して弱っていたからといって泣くとまでは思っていなかった。あんなに泣いて、あんなに喋ったのはいったいいつ振りだろう。その相手が神田ユウというならばなおさらだ。悔しいと思うが、どこかスッキリしている自分がいる。だからなおさら悔しい。
変なところで聞き上手だから余計なことまでべらべら喋ってしまった。アルマとかエドガー博士について触れる気なんてなかったのに……。だってそこに触れたら嫌でも思い出すと思うんだよね、あの出来事。それは僕にとっても、神田ユウにとっても辛いと思うんだよね。

「花火、遅いさ」
「……何故、来た」
「汽車が発車するから迎えにきたのにすげー迷惑そう!?」

痺れを切らしたのか、兎が走って僕を迎えに来た。もうちょっと待ってればいいのに、と思ったがどうやら汽車が発車しそうというのは本当なので文句はやめておこう。

「……花火、泣いたさ?」
「目立つ?」
「(え、否定なし?)ちょっとだけ目、赤いからバレるかもな」

困った。兎は余計な詮索をしないからありがたいが、おそらくリーとアレン辺りは聞いてくると思う。どうしようかな、と思っていると兎が走ってどっかいったと思ったら、すぐに戻ってきて僕にタオルを渡してきた。

「何?」
「これで冷やすとましになると思うんよ」

ぴとっと目にあてらたタオルはひんやりと冷えていて気持ちよかった。「ユウと話してたんさ?」と予想外なことを尋ねられたので、あくまでも平常心を装いながらタオルを少しずらして兎を見た。

「当たりか?」
「何故、そう思う」
「だってよ、なんだかんだで花火が素でいるのってユウ相手だろ?」
「マリ、忘れるな」
「いや、お前アイツに懐きすぎだろ」
「マリ、優しい。距離、適度」

お父さんみたいな包容力だから落ち着くんだよ。でもその所為で多分僕にとってマリは大事な部分にいるんだよね。

「でもよ、否定はしねーんだろ?」

揚げ足をとるように兎は笑う。……確かに僕は今、マリについて指摘しただけで否定はしていない。そのこと自身に僕は驚く。……よくよく考えれば僕、通信の最後にアイツの名前呼んだよね?お礼だけ言えばいいのに自分が信じられない。

「(あちゃー、こりゃユウに先越されたさ?)俺も信用してくれればいいのによー」
「記録するため?」
「お前なぁ……」

兎は自分の髪をがしがしと掻きながらなんともいえないような表情を浮かべる。図星だったのか、それとも傷ついているのか分からない。表情読みにくい人は面倒だから嫌だ。そのてん、アレンは楽でいいよね。

「花火ってば俺に対して結構酷いさ」
「名前、呼ぶな。酷い、ブックマン相手、当然」

彼等は記録をするためにこの戦争にいる。下手に介入して情が移ったらアンタも大変でしょ。だから僕なりの優しさなんだよ。そんなことを思ってるだろうとは兎は知ることないだろう。

「花火!ラビ!早くして!発車するわよ!」

リーの声が聞こえたので僕は足をそちらへ向ける。僕の言葉にへこんでるのか兎は動く気配がない。ったく、手のかかる奴だよね。本当、僕だって干渉する気ないのに面倒だ。

「……タオル、ありがと」

泣いてることに深く聞かないで誤魔化すためにタオルを走ってとりに行ってもらったことについてはお礼を言っておこうと思って兎の方を向き、言えばコイツは単純だと思うくらい顔を輝かせていた。

「花火可愛いさ!やっぱりツンデぶっ」
「行く」

でもやっぱりうざかったので僕の体温により温くなったタオルを顔面に投げつけて放置し、汽車の方へ向かった。


困惑から脱出

(二人とも遅い!)
(謝罪、ごめん。リー、機嫌復活)
(すまないさ。本当さね、さっきまで怒りマークみえてたのによ)
(二人とも……よく見てるのね)
(……というより、アレン居ない)
((あ……))


 
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