狼娘物語 | ナノ



僕が饒舌で怒りで暴走してから数時間がたった。あーあ、怒ると冷静じゃなくなるところはいつまでたっても直らないよね。本当、嫌だな。汽車を待っている間、僕は怒りの暴走に対しての反省と、そして室長に言い渡された任務を考えていた。

「クロス師匠を捕まえる、ね……」

別にティムキャンピーがいなくてもあの人の行き先は知ってるんだけどね。この間アレンから聞いた伝言を考えれば間違いなくあの人は江戸に向かっている。つまりそこへ行けばいい話だ。

「江戸、かぁ……」

正直に言えば行きたくない。だって江戸は僕たちの故郷だ。あの二人に出会い、そして本当の恐怖を知った場所だ。あそこに行けば間違いなくあの時の記憶を蘇らせることになる。でも方舟はあそこにあるというならばいかなければならない。クロス師匠の弟子として、陰陽師としてだ。狼我をぎゅっと抱きしめて顔を埋める。正直、あそこでリルに対しての宣言をしたけど自信がない。リルを殺す?そんなの無理に決まってる。できれば和解とかしたいけど……無理なんだろうなぁ。溜め息をこぼしながら僕は自分のゴーレムを狼我の中から取り出す。狼我は普通のぬいぐるみじゃなくてリュックとしての役割があるからゴーレム収納にぴったりだ。ちなみにゴーレムの名前はリユ。想像は簡単につくだろうが、リルと夢歌の名前からつけた。

「で、僕はゴーレムを出していったい何をする気だ」

僕がゴーレムを持ってるなんて知ってるの、ほんの数人しかいないだろ。片手で数えられるくらい。一人はクロス師匠。しかしあの人がでるわけない。もう一人はマリ、彼は適度な距離を保ってくれるから僕にしては懐いているほうだろう。そしてもう一人は……

「神田ユウ……」

なんだかんだで一番付き合いが長いのがアイツだ。そして次に数日差でマリがくる。だから二人は僕がゴーレムをもってることを知っていて、連絡もつく。……だからといって僕は何がしたいんだよ。相談にでも乗ってほしいのか?縋りたいのか?この僕が?

「……ただたんに混乱してるだけだ」

リルの一件でまだ頭の整理がついていないだけだ。だから独りでいるのが辛く感じるだけ。独りは慣れたのだから泣きたくなるはずなんてないのに。しかも、だからといって何故縋ろうとする相手が神田ユウなのだ。ふざけるな。頭をぶんぶんと振って今さっき、僕がやろうとしていた考えを打ち消す。間違ってもアイツにだけは縋りたくない。
よし、冷静に戻った。と頭がすっきりしたところでリユを狼我の中にしまおうとする。そのとき、リユが羽をぱたぱた動かし、通信がはいったことを知らせた。は、まさかクロス師匠から?そう思って通信を繋げた。

【……】
「……」

通信を繋げても言葉は発せられなかった。つまりクロス師匠の線は消えた。なぜならば相手があの人なら「よぉ、元気にしてるか?弱虫弟子」から始まるからだ。ちなみに僕は弱虫なんかじゃない。間違い通信か?そう思って「誰?」尋ねてみると【……よぉ】と今さっきまで浮かべていたアイツ…神田ユウの声が聞こえた。それに驚いて、一瞬固まる。何故、今このタイミングでコイツから連絡がくるというのだ、信じられない!そんな気持ちが僕を占めていた。




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