狼娘物語 | ナノ



「大丈夫だよ」

あまりにも疲れた表情でいる室長が哀れに見えたので僕は「大丈夫」と言った。「いや、大丈夫じゃないんだけど……」と室長が言うものなので僕は溜め息を吐いて説明をする。

「絶対大丈夫。戦争の審判者、必ず千年伯爵のもとにいかない」
「……花火ちゃん、珍しく断言するけど何の保障があって言ってるんだい?」
「僕、千年公大嫌いだから」

きっぱりと断言すると兎がこけた「い、いったいそれがなんの保障さ?」と言うので「僕、千年公嫌い。だから絶対あちら側につかない」と繰り返す。この言葉で、頭の回転が速いブックマンが「もしや、花火嬢が戦争の審判者というわけか?」と、正解を口にした。

「花火ちゃん!それって……」
「僕、ヘブラスカの予言、《光闇の巫女》。戦争の審判者というのは敵側の呼称であり、教団側の呼称で言えば光闇の巫女。そう言えば納得。OK?」

こてんと首を傾げて室長に確認をとれば「なんでもっと早く……」と言いかけていたがその後口を閉じた。彼は室長の立場でいるのだから教団の上に立つ者たちのことを理解しているはずだ。とくにあの蛇のようなルベリエのことを。それがあれば僕が言いたくないのも納得してるれるはず。

「で、でも戦争の審判者は教団と千年伯爵、平等の立ち位置にいるのよね?花火は明らかに教団側……」

リーの言葉に僕は「勘違いするな」と冷たく否定した。そう、勝手に僕を教団の仲間にしないでほしい。誰がいつ、黒の教団側だと僕が言った。

「僕、千年公嫌い。でも、それと同じくらい黒の教団、嫌い」

AKUMAなんて悲劇の産物を作るアイツは大嫌いだ。でもそれに対して人体実験やらなんやら行う黒の教団だって大嫌い。僕から見れば双方、同じことをしているように見える。それを正義のためだとか言い訳をしずに私利私欲のためだとか言い張る千年公のほうがまだマシに見える。まあ、どっちみち大嫌いに変わりはないんだけどね。

「でも、僕、千年公のもと、行く気ない。それ、断言」

AKUMAによって独りになる人を作らないようにエクソシストになったのにあちら側についたら本末転倒だ。話にならない。そしてクロス師匠に怒られるのは絶対嫌だ。僕があちら側につかない理由なんてそれで十分。

「花火ちゃん、君の幼馴染がノアだというのは本当だよね?」
「その子によってあちら側に行くことはないか?室長の質問はそれでしょ?」

先手を打って聞けば。彼は頷いた。そして僕の中ではリルに対しての怒りが段々膨れ上がってきてぐしゃりと手に持っていた空き缶が潰れる。それを見て室長は「へ?花火ちゃん?」と慌てていたが僕は聞く耳もたず。

「……リル許さん。次あったらぶん殴る。ふざけんなよアイツ。何が千年公もいいよって言ってるよ、だよ。僕が行くわけないだろ。つーかアイツ馬鹿?もともと馬鹿だったけどさ、仮にも一度死んだ身の人間だろ。なんであの救えないほど馬鹿思考なおってないんだよ。なんでノアとして生き返ったからって千年公側についてるんだっつー話になってるんだよ……。あー、考えだしたら苛々するなぁ。アイツだって理解してるんだろ、千年公が送ってきたAKUMAによって死んだのは村の人だけじゃなくてさ、僕の家族もだってこと。しかも、なにより僕たちの幼馴染の一人である夢歌もやられてんだぞ。なに平然とその仇の傍にいんだよ。ふざけんな、本気でふざけんな」

言っているうちに段々と本気で苛立ってきた。あの能天気な笑顔を浮かべながら信じられない言葉を口にしたアイツの顔を炎架で殴り飛ばしたい。

「(えー…花火ちゃんが珍しく饒舌だと思えば怖いよー)花火ちゃん…結局は……」
「……誰があんな奴のもとに行くか!!考えたらそうだよね、あれが元凶の所為で本当に無関係な夢歌がやられたって話なんでしょ!?絶対倒す、何を言われようと千年公側につかない!」

空き缶をこれでもか!というくらい変形させて宣言した。たとえリルが何をしてこようと絶対についてやんない、これ決定事項!あのお気楽娘に今までかけられた苦労、ここで何百倍にもして返す!!

「俺、ときどき思うけどよ。花火ってユウと怒り方似てね?」
「はい、僕も今思いました。というより花火って怒ると饒舌ですね」
「……単語口調じゃないのが新鮮よね」



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