狼娘物語 | ナノ



「多分ね、多分あると思うんだよね、イノセンス。といっても、たぶんだからね、たぶん期待しないでね。多分だから…絶対じゃなくて多分だから、でもまあたぶんあるんじゃないかなーっ、てね。たぶん」

ダルそうに言っていると、室長の上につまれていた本が盛大に落ちた。本に埋もれるとか痛そう。ちゃんと整理してないからそうなるんだよ。

「わかりましたよ、多分は」
「なんてゆーかさ、巻き戻っている街があるみたいなんだよね」
「巻き戻る?」
「そう、たぶん。時間と空間がとある一日で止まって、その日を延々と繰り返してる」

それって、もう多分じゃなくって絶対イノセンスだと思う……。イノセンス以外になにがあるんだよ。AKUMAが僕たちを呼び寄せるための罠?いや、そんな面倒なことしなくたって暴れてれば向かうからないでしょ。そう思っていると、横から死にかけの科学班長が詳細を話しだし、室長が推測を話しだした。

「で、なんで僕まで行くの?」
「花火ちゃん……ちょっといいかい」
「?」
「実はね……」



「なんかコムイさん、元気なかったですよね」

アレンの言葉に僕は無理矢理回想を中断させた。

「なんか兄さん…色々心配してて働き詰めみたい」
「心配?リナリーの?」
「伯爵の!」

リーは店のメニュー表を丸めてアレンの頭を叩いた。バインダーで頭を叩いたときから思ってたけどリーって意外と手が早いよね。暴力的だ。

「最近、伯爵の動向がまったくつかめなくなったらしいの。"なんだか嵐の前の静けさみたいで気持ち悪い"ってピリピリしてるのよ」
「……きっと、始まる……。大きな戦争、沢山死人、出る……」
「え?」
「千年公、きっと何か待ってる。機会…タイミング、計らってる。もうすぐ舞台が整う。大きな、大きな戦争が始まる……。世界が壊れてく音、聞こえる、視える」
「花火どうしたの?」
「最近、霊達騒がしい。何かに怯えてる」
「花火!!」

リーに大声で呼ばれてハッとし、僕は我に返った。「いったいどうしたのよ」と言う彼女に対して「……なんでもない。気にしないで」と言っておく。色々考え込んでいて思っていたことが口に出てたらしい。二人の顔を見れば凄く心配そうな表情を浮かべていた。そのとき、ガチャーンと急にアレンは停止し、フォークを落とした。「?アレンくん、フォーク落ちたよ」と言うリーへ対して返事がなく、どこかを凝視してるので、そっちへ振り返ってみると……。

「ひっ……」

リーの後ろの席の人が怪しい格好でこちらを凝視していた。その光景はホラーで思わずリーに抱きついた。「花火!?」と驚いているが今はそんなこと気にしていられなく「うし……おば、け……」と言葉にならない声をだす。
日頃霊眼で本物の霊とか視るけど、ホラーチックな幽霊とかは本気で怖い。むやみにやたらめったら加工された幽霊とか怖すぎるんだよ。なので、僕は涙目でリーに抱きついて隠れた。



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