狼娘物語 | ナノ



沈黙から数十分、モヤシがさっきからチラチラこっちを見て、何か言いたそうにしている。……正直うざったい。物凄く鬱陶しい。「……さっきから何?」いい加減鬱陶しいよ。そういう意味合いを込めていうと、彼は遠慮がちに「あ、あの……名前で呼んじゃ駄目ならなんて呼べばいいんですか?」と尋ねてきたので「苗字」と間髪いれずに答えた。「苗字?」首を傾げながら復唱されてから気付く。そういえば僕はコイツに苗字を言ってないんだ。

「炎狼」
「貴方は炎狼花火って言うんですね!あれ?なんか神田と雰囲気が似てる気が……」

神田ユウと似てるという言葉に、僕は思わず手に持っていた空き缶を握りつぶした。中身が入ってなかったのが幸いだ。はいっていたら僕の手がべたべたになっていたであろう。

「(ひぃっ!なんか怒ってるー!?)あの……何故ですか?」
「一応同じ国の奴」

それだけ言うと、モヤシは納得したように頷いた。
本当に不本意だけどね。でも国内では面識がない。まあ、小さな島国と言ってもそれなりの面積はあったしね。僕とアイツが対面したのはアジア支部で…という説明はしなくてもいいだろう。

「なんで、名前で呼ばれるのが嫌なんですか?」

……やっぱりコイツ嫌いだ。ずかずかと肝心のところで遠慮なく踏み込んでくる。空気が読めない奴なのか。

「関係ない」
「で、でも仲間だから名前で「勝手に仲間扱いするな」」

教団は仲間意識が高いから嫌だ……。なんでそんなに仲間が作りたいんだよ。教団に閉じ込められた者同士で傷の舐めあいでもするの?くだらない。

「僕に仲間いらない」

マテールで揺れたのは気の迷いだ。昔のことで弱ってたからあんなこと思ったんだ。ララに対しての感情は素直に認めたとしても、コイツに対して思ったことは絶対に認めない。
僕に仲間はいらないんだよ。



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