狼娘物語 | ナノ



「クロス・マリアン元帥。あなたは4年前、アクマ生成工場破壊任務を通達されてすぐ、教団本部から消息を断ち、以後現在まで一切の報告義務を放棄し、今回日本江戸地区にてクロス部隊、ティエドール部隊が戦闘中に方舟内に潜入。その後敵側にハートの可能性をつけられたリナリー・リーと他4名のエクソシスとのち適合者と判明する青年1名が崩壊を始めた同方舟内に拉致され、ノアと戦闘……」

途中から僕は話を右から左へと素通りさせた。というより、それを耳にいれることすらやめた。だってほとんど当事者としてその場にいたから聞かずとも分かることだ。頬杖をかきながらあくびをこぼす。ああ、寝てもよいだろうか。もともと元帥でもなんでもない僕が参加する必要ないじゃないか。いや、一応ヘブラスカから大業な予言を貰ってるけど。この戦争でさり気なく大事な鍵のポジションにいるけど。もういいや、寝ちゃえ。そう思ったときに「アレン・ウォーカーの存在もだが、紫風夢歌の存在も怪しい」という言葉が耳に入って僕は目をカッと開いた。それから静かに「どういう意味ですか」と問う。

「ああ、キミは彼と幼馴染らしいね。最近耳にしたよ」
「夢歌が怪しいって、なんですか」
「ノアの娘の墓を作ったそうじゃないか。ノアとの繋がりがあると考えていい。そうなると、彼は千年伯爵側から送られたスパイだと考えてよい」
「夢歌はスパイなんかじゃない!墓だってノアの墓じゃない!僕たちの大事な幼馴染の墓だ!」

円卓をバンッと叩いて蛇野郎もといルベリエ長官を睨みつける。クロス師匠が「花火、落ち着け」とか言っていたけど今回ばかりは落ち着いてなんていられない。こいつ、夢歌に手を出す気だ。もし、一般人が体内にアクマウィルスの抗体をもってるなんて知ったら何かするに決まってる。そんなこと、絶対させない。たとえ、この場で師匠命令があったとしても問い詰めることはやめない。

「夢歌に手出しするなんて、絶対に許さない」
「随分と饒舌に喋るようになったみたいだね。私は嬉しいよ」
「他人にもならないただの顔を知ってるだけの人相手に饒舌なときは……僕が本気で怒ってるときだ」
「他人にもならないというのは酷い言われようだな。キミは自分の立場を忘れてないかい?十分に、キミも疑う余地があるんだ。ノアの娘と親しい時点でな」
「リルはリルだ。ノアなんて関係ない。あの子は僕と夢歌の大事な幼馴染。それ以上その汚い口でリルと夢歌についてなにか言ってみろ」

──殺すぞ。

この戦争で学んだのは戦闘の知識とか、世の中の汚さとかいろいろある。そして普通なら学ばないような殺気の放ち方だって学んだ。その戦争中に学んだ殺気を向けながら重い一言を発する。僕だって、人殺しなんてしたくないさ。でも、大事な幼馴染だ。夢歌にいたっては、この世にもう一人しかいない僕の大事で大切で大好きな人だ。教団なんかに、手出しはさせない。蛇野郎は何かを言おうと口を開きかけたが、それよりも早く僕は術を放ち、彼の頭すれすれに当てる。それ以上、喋るなという警告だ。

「夢歌の周りを嗅ぎ回ったり、手を出したりしてみろ。僕は容赦しない」
「キミの周りは嗅ぎ回ってもいい、と受け取りますよ」
「どうぞ、ご自由に。僕の周りを嗅ぎ回ってもアレンの件に関しても、千年公に関してもなにもでないよ。ああ、あと僕に深入りはしないほうがいいよ。
僕、呪われてるからさ」

こういうときは最大限にこれを利用しよう。嘘は吐いていない。真実だけだ。僕のこの霊眼。発動をせずともハッキリとじゃなくても視えることはある。それに気配はビンビンに感じる。そんな僕が気を狂わせずに冷静にいれるのは、彼らが危害を加えてくるような奴らだけじゃないから。一応自覚はしているさ、僕が幽霊に対して愛される体質くらい。というより、この能力で幽霊相手に愚痴を聞くとかよくあることで、自然と懐かれる。愚痴をこぼすくらいなら成仏しろともよく思うけど。
懐かれているから、彼らは僕のためになにかしようとする。自惚れかもしれないけど、幽霊である彼らは小さい頃からなにかと僕を笑わせようとしてくれているのだ。だから、僕が心の底から『ルベリエなんて死んでしまえ』と思えば嬉々として呪い殺すだろう。だから、僕は呪われていると言われるのだ。

「じゃ、体調悪いんで」

席に着くことなく、僕はその場から離れる。誰かが止まるように怒鳴っていたけど、知ったこっちゃない。こちとら怪我人だ、労れという話だ。未だに夢歌たちが目をつけられた苛立ちが収まらず、僕は乱暴に会議室の扉を閉めた。

許さない
(ゆーたー)
(呼んだか?!)
(早い登場で)
(?! なんで俺今殴られたん!)
(イライラした)
(理不尽!!)


 
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