狼娘物語 | ナノ



あの後、眠りにつこうと思ったけどなんだか眠れなかった。というより、用事を思い出したから眠るに眠れなかった、のほうが正しいのかもしれない。まあ、たいした怪我もしてないしちょっとくら病室を抜け出してもいいだろう。点滴の刺さった腕を庇いながら、カラカラと音を立てて歩く。ふいに病室から「マーくんの言うことを聞きなさい、ユーくん」という会話が聞こえてきた。そういえばティエドール元帥は教団に戻るなりそういう呼び方をしていたよなあ。あの顔にユーくんとか似合わない。心の中で思いながらもぴょこりと病室に顔を出す。うん、ラビの左隣のベッドはみないことにしよう。目を逸らしながら「あんたのそういう所が大っっっ嫌いだーっ!!!」と叫んでいるユウに「病室でうるさいよ」とわき腹に手をビシッとさしながら注意する。ユウは「てめ……っ!」とお腹を抱えて前のめりになっていた。僕はそれをスルーしながら「マリ元気?」と聞く。

「ああ、大丈夫だが……花火は病室を抜け出していいのか?」
「婦長、怒る。でも、用事」
「神田にか?」

マリの回答に対して眉間にしわをよせつつふるふると首を横に振って否定する。それから「ティエドール元帥に」と答える。ティエドール元帥は「私にかい?」と人のよさそうな笑みで聞いた。ああ、でもこの場合は察してほしかったとも思う。

「会議の時間……いつからですか?」
「ああ、そうか。もうすぐ始まるが……今回ばかりは休んでもいいんじゃないかな?キミも怪我をしている」
「大丈夫。それに、今回は結構重要」
「元帥でも、支部長でもないのにあの会議に強制参加させられるのは大変だろうね……。とはいえど、キミの場合は元帥になるのを頑なに断ってるみたいだけどね」

その台詞に、マリは心配そうに、ユウは眉間にしわをよせながら僕を見た。それから兎は「え、なにそれ?」と大量の?を浮かべていた。ああもう、こんなところで言わなくてもいいじゃないか。ムスッとしていると「極秘だったかい?」とすまなさそうに眉をさげたティエドール元帥。「隠してはいません」と返せば安堵したかのような笑みがう返ってくる。

「頑な、ってわけじゃないですよ。ただ『全エクソシストへ対しての扱いを配慮するというのなら、なってやる』って言っただけです」
「私が聞いたかぎりじゃ『お前等みたいな姑息で汚い奴らのために誰が元帥になるか』と断ったと聞いたのだがね」
「……気のせいですよ」

目を泳がせて言うと「言ったんだな」とユウから鋭い言葉が返ってきた。ああ、言ったとも。悪いか、この野郎。そのようなことを返していると「なんで喧嘩腰なんだよ」と言われた。イライラしてるからだよ。だって、これから僕はあの蛇男が仕切るあの胸糞悪い会議にでないといけないんだぞ。ああ、思い出しただけで苛立つ。だいたい、僕が元帥を断ったのもあいつ等は僕を手元においてこの戦争をよりいっそう不利にならないように監視するためだったんだ。断るに決まってるでしょうが。開き直るとマリが苦笑いした。

「クロス師匠は……どうせ、そのへんの美人を捕まえて酒でも飲んでるか」
「ご明察。さすが、一番弟子だねえ」
「あの馬鹿師匠を捕まえて会議に引きずらないと……。うん、そうだ、そうしないと」

じゃないとあの人は会議を平然とすっぽかす。別に、それはそれで上の顔が立たなくなるだけで、別にいいのだけど……今回は話が別だ。アレンについての話がかならず上がる。あの蛇野郎はくどくどネチネチと何かを言ってくるだろう。その矛先になるのは真っ平ごめんだ。クロス師匠がそれくらいやれっていうの。頭の中で考えがまとまると、一人で大きく頷いて踵を返す。病室から出ようとして、扉に手をかけてからぴたっと止まる。それからユウに「"ゆっくり"回復、絶対」と強調しながら言った。だって、実験によって手に入った回復力は寿命と引き換えにでしょ。早死にとかやめてよね。そういう意味をこめて言った。

「あ、マリもゆっくり休んでね。ユウやティエドール元帥の相手をしたせいで悪化とかしちゃダメだよ」
「おい、なんでマリにだけそういう態度なんだ」
「だってマリだよ」

扱いの差がでて当然でしょ。当たり前のように返せば「……元に戻ったと思ったらテメェ」と睨まれた。でも、そんなの怖くない。ベーッと舌をだしてから病室から素早く出た。だって、婦長がやってくる気配がしたから。

「クロス師匠、探そう」

探すと言っても、お酒の臭いをたどればいい話だけどね。



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