あのあと、ピアノのある空間からでれた。リナリーはクロス師匠とお留守番。クロウリーを看ているのだ。……実質はクロス師匠と二人きりにするということに若干抵抗があったけどしかたがなかった。その分、兎は思い切り殴っておいた。
「神田…ずっと気になってたんですけど、その胸の模様。どうしたんです?どんな大きいタトゥー入れてましたっけ?」 「別に」 「会話になってませんね、神田。はいっ、言葉のキャッチボール!」 「ウゼェ奴」
などといがみ合ってる二人。二人の会話を聞きながら、僕は話題になっているタトゥーを横目で見ては顔を歪める。 広がっている。それに、傷全体の癒えも遅い。それは、ユウの寿命を表しているようで嫌だ。
「お前がそんな顔する必要ねぇだろ」 「……煩い。表情は人の自由」 「ッチ。お前は大丈夫なのかよ。臓器に穴あけられたんだろ」 「イノセンスがほとんどふさいだから」
そう答えれば「あんま無理すんなよ」とわしゃわしゃ頭を撫でられた。髪がボサボサになる。眉をひそめた。一通り撫でたと思えば「それより、外に出られねェのかよモヤシ!」とアレンのところに行っていた。
「なんだよ、まったく」 「らぶらぶさねー」 「死ね、兎」
わけがわからない兎に暴言を吐けば「ひでぇ!」と涙目になっていた。それから「なんで俺だけ名前じゃないんさ……」と地面にのの字を書きながらへこんでいた。正直いって見苦しいのほかない。やれやれと思って僕はしゃがみこんで兎と視線の高さを合わせる。
「兎はブックマンでしょ?馴れ合えば馴れ合うほど、身を引くのが大変なんじゃない?」 「それは……」 「ブックマンは教団側の味方ではない。偶然こちら側にいるだけ。今のラビは中立じゃなくて、完全に私情でこちら側になってるよ」 「なんでジジィみたいなこと言うんさ」 「だって事実でしょ?僕が言いたいのは、ブックマンとしてこちら側にいるかぎり僕に気安くならないで。途中でいなくなるかもしれないブックマンを大切とかそういうカテゴリーに僕は含めたくないの」
じゃないと、いなくなったとき辛い思いするだけだから。それは言わずに僕は立ち上がる。だから複雑そうな表情をしていた兎なんて見ていない。これ以上いる意味もないから、僕は一足先にクロス師匠たちのいる場所に戻ろうとする。後ろから変な悲鳴があがってたのは聞かなかったことにした。
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