狼娘物語 | ナノ



神田ユウ side

花火はすぐに見つかった。昔、使っていた部屋にいたのだ。部屋の隅でうずくっていた。耳を傾ければ嗚咽が聞こえる。ガタンッと足が物にぶつかり音をたてた。その音に反応して、あいつはゆっくり顔を見上げた。そして力なく「なに?」と聞く。俺に質問しているのに、答えを待たずに「夢歌に言われたんでしょ」と言う。

「別に、大丈夫だよ」
「なにが大丈夫なんだよ」
「大丈夫だから」

放っておいて。そう言われた気がした。全然大丈夫じゃねーだろ。そんな力のない声をしていて、目を腫らしておいて、大丈夫なわけねーだろ。なんで……なんで、そこまで隠すんだ。俺は気づけば花火のことを抱きしめていた。「はなして……」と言うが、それも力がなかった。抵抗する気力も、ないのか。抱きしめた花火の身体は本当に小さく、そして細かった。力をいれれば折れてしまいそうだ。そう感じる。

「一人で泣いてんじゃねえ」
「だからって夢歌の前で泣けないよ」
「俺がいるだろ」
「ユウはこの件に関係ないじゃん」

これは、幼馴染同士での出来事だから。お前は関与するな。そう言われた気がした。その瞬間、俺のなかでなにかが切れた音がした。怒鳴ることはしない。だが、自分が思っていたよりも低い声で気づけば喋っていた。

「幼馴染どうのこうのはしらねーけど、それでもいる年月が一番長いのは俺だろ」
「それは、関係ない……」
「関係ないわけないだろ。お前がどんだけ弱いのか……その程度知ってんだよ。一人で抱え込もうとして壊れそうになってんのだってずっと知ってんだよ。どんだけ俺がお前のこと見てると思ってんだ」

いい加減気づけ馬鹿。そういうように言えば、花火は俺の顔を見上げるように見た。銀色の瞳には大粒の涙がたまっていた。そして、次の瞬間にダムが決壊したかのようにとどめなく流れ出す。

「リルが冷たかった……っ。せめて安らかに眠れるように葬儀してあげようと思ってつれて帰るとき、抱きかかえたら凄く冷たかったのっ。リルはずっと温かくて、太陽みたいに笑ってたのに……それが凄く冷たかったっ」

泣き顔は見せたくないのか、隠すように俯く。俺は何も言わずに、抱きしめる力を花火が壊れないように加減しながら強める。

「もう、笑ってくれないんだ。名前を呼んでくれないんだ。手を差し伸べてくれないんだ……!クロス師匠の前でさ、あんだけ泣いたのに、もう割り切れたと思ったのに……一人でリルを抱えたら全部実感しちゃって……涙が止まらないんだ…っ!」

苦しそうに、辛そうに。喉から搾り出したような小さな声で叫ぶ。「なんでだよ。なんでこんなにでるんだ」と繰り返していた。
当たり前だ。花火は身内が目の前で亡くなって、一日二日で復活できるような奴じゃない。そんなの俺が一番知っている。亡くなった奴の十字架を、無関係だろうと身内なら全部背負って、何年も何年も悲しんで苦しんで泣いている。だからこの何年ものあいだ、お前は独りでいようとし続けてたんだろ。ずっと、泣くのを我慢してたんだろ。

「お前は何年分の涙ためてたんだって話だ。溜めてたもの全部だしとけ」

ぽんぽんと頭を軽く叩いて言ってやれば、花火は俺の胸に顔をあてて泣いた。今までためていたもの全部流すように。我慢していたもの全部吐き出すように。文章にならない言葉をつなげて吐き出しながら、枯れることの知らない涙を流しながら。花火は泣き続けた。
その間、俺はずっと花火を抱きしめているだけだった。



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