狼娘物語 | ナノ



結局アレンは最後、クロス師匠の聖母の柩…《脳傀儡》によってとめられていた。その隙を狙ってあのカボチャが千年公のもとに飛びつく。いったい、どうやったら傘が自由に動けるのだ。そう思ってみたが、よくよく考えてみればゴーレムかもしれないというのもあるな。

「この子は無意識にノアを抑える所がありましたからネェ。《快楽》のメモリーの子には代々期待しているのでス」
「早く新しい家に帰ろうレロ。伯爵タマ〜!!」

その会話と同時進行で、千年公はロードの能力による扉に吸い込まれるようにはいっていく。このままじゃ、逃げられる。そう思っておいかけようとしたが、それよりも早くクロス師匠に「追うな」と制止の声がかかる。本当は、リルの件も含めてあのふっくらと丸まった身体を殴り飛ばさなければ気がすまない。でも、師匠命令を無視したら命の危険もあるので、我慢する。くるっと千年公たちが消えた場所から背をむけ、リナリーが一生懸命支えているアレンの肩をもって引き上げる。傷がかなりある。イノセンスを無理矢理開放した形跡も。このままじゃあ、アレンの身体に障ってしまう。寄生型のデメリットだ。

「花火。まだいけるか」
「いけなくても言ってくれればやりますよ。僕はずっと、貴方の傍若無人に振り回されて生き延びてるんですから」
「ハッ。口だけはいっちょまえに成長しやがって」
「僕は炎狼家の末裔であり、先祖代々のなかでもっとも強い霊力をもつ巫女。あの程度の力を使ったくらいじゃあ、へばりません」
「そうか。……花火、数十秒でいい。空間崩壊をとめろ」
「──了解」

数十秒というところを強調したのが、クロス師匠の優しさがあらわれた気がする。本当は、もうとっくの昔に大きな術の連発で限界が近いって知ってるからだろう。それでも僕に任せる。だったら、その期待に裏切らないようにしなければ。

「我が親愛なる者を脅かす存在を拒絶し、親愛なる者を守れ……──守安」

ぼわんっと球形の物質が僕らを包んだ。その周りは崩壊し続けるが、球形の内部にはそれが及ばない。これは、あらゆるものを拒絶して、僕が認める者を守る術。それは万物を反して内部の空間の時をとめるというもので、消耗が激しいのだ。ガクンッと膝をつけるども、集中をきらして術を途切れさせることはしない。

「花火!大丈夫!?」
「へ、き……」
「汗が凄いわよ!」
「ん……だから、なるべく早くしてくれると……」

リナリーに支えられながら立つ。クロス師匠に目を向ければ、やっぱり達者なのは口だけだなという目で笑われた。霊力についてはまだまだ底につくことはない。ただ、僕の身体がその霊力に追いついていないのだ。簡単に言えば体力消耗が激しくてスタミナ切れ。

「立て。お前を手伝わせる為にノアから助けてやったんだ」
「…………てつだう……?…何を、するんですか…?」
「任務だ」

ドガァンと塊がクロス師匠の後ろに落下した。まだ、術は効いてるはずなのに。見上げれば、結界が突き破られているところがあった。強度に問題があったのか……もう一度張りなおそうとしたが「もういい」とクロス師匠にとめられた。ああ、結局僕は肝心なところで役に立てなかった。14番目の奏者についても、方舟についても知っていたけど……最後は私情に任せて動いたから、いろいろ術連発して体力の消耗を大きくさせた。頑張るって決めたのにな……。
ふらっと身体が前へと倒れた。地面の衝撃を覚悟するが、それよりも先にクロス師匠に抱きとめられて支えられる。

「お前はよく頑張ったほうだ」
「あは、……最後までやりとげてないのに……らしくない」

だって、結局僕は何も役に立てなかったじゃないか。自分を責めるように呟いた。それに対しての返答はなく、かわりに「もう、休め」と言う。クロス師匠は鋭いなあ。僕の限界はとっくに超えて……限界の限界まできていたことに気づいてたんですね。珍しく僕を気遣ってくれたクロス師匠の好意に甘えることにし、僕はゆっくり目を閉じた。

ここで離脱します
(炎狼花火。身体の限界により戦線を離脱)
(彼女は本来、奏者についての知識を得ているから)
(方舟を操る予定のアレンを支えて彼に眠るものを封じる役目)
(しかし、これ以上の術多用は命に関わるとクロスは判断した)
(花火の離脱に得をする者たちがしかけたみたいに動いている)
(クロスはそう語った)


 
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