狼娘物語 | ナノ



いったいどれくらい泣いたかわからなかった。一通り泣いたところで、ぐいっと涙を袖で拭った。

「もういいのか」
「いつまでも泣いてたら、リルが安心してくれません」
「そうか」
「クロス師匠。リルの遺体……ちゃんと埋葬していいですよね?」
「ああ。もう一人の幼馴染と一緒にやってやれ」

いつから、知ってたのだろうか。夢歌が無事だったということを。クロス師匠のことだから、ずっと前から知っていたのかもしれない。だったらなんで、もっと早く教えてくれなかったのかという不満もあるけど、クロス師匠のことだからなにか思うところがあったのかもしれない。俯いていると「頑張ったな」と珍しく師匠からの労いがあった。それがこそばゆくて、「まだ、終ってません」と返した。

「この方舟のなかでアレンたちが戦ってるはずです」
「そいやあ、そうだったな」
「白々しく……。ここまで来たのだから任務を全うしないと駄目ですよ」
「っち、相変わらずかてェ奴だな」
「……この任務、成功させないとアニタたちが報われません」
「……そうか」

この言葉でクロス師匠はアニタについて悟った。煙草の煙を吐いて「いい女ってのは一途すぎるよな」と瞳に寂しげな色を混ぜて言った。

「クロス師匠が優しいと知ってるからですよ」
「ハッ。あんなけ厳しくされておいてよくお前も言えるよな」
「だって、クロス師匠。僕には借金つけなかったじゃないですか」

アレンにはあんだけ莫大な借金をつけておいて、僕には一銭もつけなかった。それどころか、僕のためにお金を使ってくれるときだってあった。たしかに修行では厳しかったけど、日常生活では本当に優しかったんだ。

「クロス師匠の不器用な優しさ、僕は好きですよ」
「……勝手に言ってろ(どうやら、吹っ切れたみてェだな)」

煙草の火を消して、クロス師匠は立ち上がる。リルにむけて呪文を唱えた。?を浮かべていると「これで腐るとかねぇだろ」と言った。どうやら、クロス師匠はリルの遺体の腐敗を防いでくれたみたいだ。この空間も、クロス師匠に加工されたものだろう。リルはこの戦いのあとにつれていこう。それまで、安全な空間で眠っていてほしい。

「いくぞ、花火」
「はい、クロス師匠」



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