狼娘物語 | ナノ



「ゆ、た……?」
「あの馬鹿ね、生きてたみたいなんだ。AKUMAのウィルスに抗体もってたんだって」
「そ……っか。そういうことか……」

リルは下を俯いた。身体がふるふる震えていた。それは夢歌が生きていると知った喜びからかは分からない。「ふふふ……」ぽつりぽつりと笑い、「ふふふふ、あはははははっ」と狂ったように、壊れたように……リルは高らかに笑った。それを同時風がざわざわと吹き荒れる。

「あーあ、残念。夢歌がいるっていうならしょうがないね」
「夢歌を殺す、なんて馬鹿なことは言わないよね」
「言わないし、言えるわけないよ。だって夢歌だって花火ちゃんと同じくらい大事なんだから」

リルは嬉しそうに、愛おしそうに綺麗に笑った。「愛情表現の仕方が違うけど」と付け足して。ああ、よかった。彼女が夢歌を殺してまで……なんて言わなくて、本当によかった。心底ホッとした。でも、だからといって状況は変わらない。「夢歌がいるならしょーがないっ」くるくるとリルは回る。

「それじゃあ、そのエクソシストたち殺しても花火ちゃんが悲しむだけなんだね」
「うん、そうだね。そんで最後は夢歌に慰められて、彼に対しての依存度が上がるだけかな」
「うわあ、それはムカつくー。でもさ、花火ちゃんさえ手にいれちゃえば……夢歌もこちら側になるんだよねえ」

それは、普通に考えられる。正義感の強い夢歌が勝手に千年公側にいくとは考えられないけど、僕とリルがそちら側とかいったら絶対くるに決まっている。それはそれで、また昔みたいに馬鹿やれるなら嬉しいし、楽しいと思うけど……でも、僕はそちら側に行こうなんて思わない。

「じゃあ、いいよ。花火ちゃんは力ずくでももらうから」

僕を捕獲すること以外は興味をなくしたのか、リルは怒りを交えた殺気をおさえた。彼女は馬鹿だけど馬鹿ではないのだ。矛盾してるな。つまり、こういう戦術とかに関しては頭がいいのだ。性格馬鹿なだけで。彼女の意図を読み取って、僕は「ちょっとだけ待ってね」とリルに言う。リルも「いーよ、お別れの言葉いっておいで」と笑う。……永遠の別れにはしないけどね。くるっとリルに背をむけて、僕は皆のもとによる。

「皆はさきに行ってて」
「でも、それじゃあ花火が!」
「じゃあ聞くけど、皆が残ってなにができるの?」

真剣な目でみつめる。僕は戦争のために残るんじゃない。個人的問題で残るんだ。だから、僕以外が残ってリルと戦うのでは意味がないの。兎が「幼馴染なんだろ。戦えるさ?」と心配そうに聞く。僕は「さあ?」肩を竦めた。

「僕はエクソシストとしてノアと戦うつもりで残るわけじゃない」

コートのボタンを一つ一つ丁寧にとる。一番下までとり終えたところで、コートを脱いだ。下からあらわるのは白と赤の布により作られた衣装……巫女服。今まではエクソシストとして戦っていたから、教団のコートを羽織っていた。でも、今回は別だ。エクソシストとして戦うのではない。

「僕は天瀬リルの幼馴染を炎狼花火として。この世に縛り付けられて苦しむ魂を炎狼家の末裔である陰陽師として浄化させるだけ」

だから、さきに行って。なにを言っても聞かないと分かったのか、アレンが「わかりました」と息を吐いた。ラビが「あんま無茶すんじゃねえぞ」と僕の頭を撫でた。リナリーが「絶対帰ってきてね……!」不安そうに僕を見た。クロウリーが「頑張るである!」と僕を激励した。チャオジーが「エクソシスト様、負けないでください!」と僕を応援した。「わかってるって」と冷たく言えば、苦笑しながら扉に足をむけた。

「で、アンタが残るとか言わないよね?」
「……っち、死ぬんじゃねえぞ」

ぶっきらぼうに言ってユウが扉に向かって歩きだした。そんなの分かってるって。言われなくてもいいよ。皆心配しすぎなの。でも、ごめん。頭ではわかってるけど約束が守りきれるとはかぎらないからね。

「さあ、リル。始めようか」
「そうだね。花火ちゃん」

幼馴染として
(最初から約束を守る気がなかったじゃねえか)
(っち、馬鹿なことすんじゃねえぞ。花火)
(あーあ。ユウにはバレてるんだろうなあ)
(リルを一人にすることはできないんだ)
(約束破ると思うけど、ごめんね)


 
MENU

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -