狼娘物語 | ナノ



村人が逃げ去ったのを確認してから、僕は彼らに囲われていた者を見る。小さな、子供だった。「ひっ、ぐす……」と泣いている様子を見て、アレンやリナリーが慌ててその子供に「もう大丈夫ですよ!」「貴女を虐める人はいなくなったわ」と慰めていた。……ここは作られた世界だというのに、優しいね。小さな子供は「助けて、くれて……ありがとう」涙を懸命に拭き取りながら、俯かせた顔を上げてお礼を言う。サラリと胸まで伸ばされた漆黒の髪が流れた。髪に覆われていた瞳が露になる。銀色の、透き通った瞳。「!?」「なっ!」観察力に長けている兎と、昔の僕の姿を知っているユウは感づいた。そして、僕は確信を得た。ここが、どこを表しているのか。そして、この部屋に誰がいるのか。それに気づかないアレンたちは泣いていた子供に笑いかけていた。

「こらあああああっ!!」
「お前らなにしとんやあああっ!!」

子供の怒鳴り声が聞こえた。アレンたちと泣いていた子供の間に、二人の子供が割り込む。「大丈夫!?」「怪我はしとらへんか!?」二人が座り込んでいる子供に手を差し伸べて怪我がないかチェックする。村人が投げつけた石が当たっていたのだろう。額に傷ができていた。それを確認した二人はこちらをキッと睨んだ。

「「お前ら、よくも俺/あたしの大事な奴を怪我させたな!!」」
「え、僕たちは……」
「言い訳するな!!」
「本当になんなん!?なんでコイツばっか嫌われなあかんの!」
「……いや、待って。この人たちは僕を助けてくれたんだから」
「「え゙」」

二人の反応にため息を吐いていた。ぱんぱんっと巫女服についていた砂埃を叩いて立ち上がり、「この人たちは、僕を、庇ってくれた」と一つ一つ強調して説明していた。それを聞いてうんうんと頷いた二人は手をポンッと叩いて「「いい人たちじゃん!」」と閃いていた。

「この馬鹿が疑ってごめんなさい。あたしは天瀬リルといいます!」
「ちょい待ち!俺も疑ったけど、リルもやろ!!あ、俺は紫風夢歌いいます!」
「ようはどっちもどっち。……馬鹿二人がごめんなさい。あと、助けてくれてありがとうございます。僕は炎狼花火といいます」

流れで一通り自己紹介して、三人はペコリとお辞儀した。三人の名前を聞いて、ようやく悟ったアレンたちは目を見開く。僕はなにも映し出さないで、冷たい目で三人をみつめる。
そう、ここに広がる景色は、僕とリルと夢歌が生まれて、ばらばらになった……あの村なのだ。



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