狼娘物語 | ナノ



助走をつけて「マッリー!」と彼の大きな背中に飛びついた。そのときの僕はさぞかし上機嫌な様子だっただろう。その行動に驚いている者が数名。慣れている者が数名に別れていた。ちなみに、マリ本人は「いつもより機嫌いいな」と笑っていた。

「やあ。花火ちゃん、久しぶりだねえ」
「お久しぶりです、ティエドール元帥。江戸までの長旅はお疲れでしょう」
「いやあ、そうでもないよ。キミもいろいろ大変そうだしねえ」

マリの背中から降りてぺこりとティエドール元帥にお辞儀をする。元帥の人は目上だから礼儀は重んじなければならない。デイシャについては、触れない。悲しいものは悲しいけど、いちいち言っていられないのだ。でも、隠しきれていられなかったようで、マリが「頑張ったな」と優しく頭を撫でてくれた。

「で、どういうことだ?」
「主語言ってくんない?」
「臓器に穴を開けられたどうのこうのだよ」
「いったい、どっから……」
「大丈夫、なのか?」

ポーカーフェイスが売りな、彼の顔が曇っていた。まったく、変なところで心配性というか、優しいというか、甘いというか……いや、全部か。「大丈夫なんじゃない」と軽く返しておいた。「おま……っ」なにも言わなかった。否、言えなかったのだ。めったに人を心配しない彼がそんな行動してるから、ティエドール元帥とかマリが温かい微笑みを浮かべているから。僕はそれに便乗して茶化す。

「ユウちゃん、心配性だなあ」
「ユウちゃん言うんじゃねえ!!本調子に戻ってると思ったらこれだもんなあ!!」
「嫌な性格を鍛えたのはユウちゃんたちだねえ」
「……花火……テメェ!!」

ぎゃんぎゃん騒いでるか無視する。僕の変わりにティエドール元帥とマリが「ユウちゃん煩いよー」「花火が元に戻ってよかったじゃないか」となだめていた。いや、なだめているのはマリだけで、ティエドール元帥は火に油をそそいでるみたいだけど。



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