狼娘物語 | ナノ



チリリと目が熱くて痛んだ。同時にふらっと身体が揺らいだ。倒れそうになったのを、慌てて壁に手をつけて支える。周りには誰もいなくてよかった。特にアレンとかバクさんとかフォーとか。そこらへんの人がいたら間違えなく大騒ぎされていた。フォーにみつかったら、イノセンスの生成を様子見にされる。それは困る。僕は早く江戸にいかないといけないんだ。

「〜〜っ!」

チリチリと、目の痛みは大きくなる。なにかを訴えたいのか、霊眼が勝手に発動した。こんな状態を誰かに見られたくなくて慌てて手でおさえる。心臓が大きくなり、血液の流れがどくどくと速くなる。目をおさえた指と指のあいだに少しだけ隙間を開く。そして、目を見開く。

「なんで……っ!」

脱兎の如く僕は廊下を走り、外を見る。嫌な予感がして、背筋に冷たいものが流れる。信じたくなくて、周りをきょろきょろ見渡す。そして、信じたくないものをみつけてしまい、足が崩れた。

「アニ、タ……」

一瞬見えたのはアニタの影。でも、こんなところに彼女がいるわけなくて……いたとしたら彼女の魂となるわけでそれはつまり……この世のものじゃなくなったということなのだ。信じたくなくて駆け出して、見渡してすぐにみつからないから安堵しようとしたところで、みつけてしまった。アニタを。信じたくない、信じられない。そんな気持ちが心に交差した。

「いかな、いで」

彼女にむけて手をのばす。それを困ったように見ながらアニタは首を横にふる。それからふんわりと笑みを浮かべた。ああ、これは夢じゃなくて本物なんだ。幻じゃなくて、本物のアニタなんだ。

「ばか……」

だから言ったのに。乗船するなって。本当に馬鹿だよ。
アニタは、眉尻を下げて僕を抱きしめる。触れた感触はしないけど、それはとても暖かかった。



MENU

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -