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ガラッと勢いよく開けられた扉と共に静まり返る教室。
開けた本人は全く気にせずに堂々とした足取りで教室の中に入り、ある席を目指す。
「………遊…」
「あ、こんにちは。大瀬先輩。」
「柘榴で良い」
「あ…はい。」
「…寝る」
「あ、はい。」
目的地に着いた黒猫は後ろ向きに前の席に座り、俺の席の机に顔を沈めた。
黒猫……もとい、大瀬柘榴先輩は、昼過ぎになるとふらりと現れ、毎日このような形で昼寝をする。
その度に、一旦教室は静まり返るので、若干クラスメートに申し訳ない気にもなる。
俺こと、瀬戸遊は、普通のどこにでもいる高校生だ。顔も成績も家柄も中の中。…いや、顔に関してはもうちょい低いが。とにかく、とても平々凡々な人間だ。
それに比べ、柘榴先輩はその名を知らない奴はいないんじゃないかと言うほどの有名人。整った顔立ちと大瀬財閥の御曹司ということで女子にモテる反面、ここらを縄張りとするチームの総長ですこぶる強く、誰もが彼を恐れている。
そんな正反対な人生を送る先輩が何故か俺に懐いて(?)しまったが為に、俺は好奇の目を向けられる毎日を過ごしている。
でも、そんなの別に気にしない。
人と関わるのを極力避けてきた俺にとって今更他人の目など恐れるに足りない。
それよりも、良くも悪くも人を寄せ付けない先輩が俺に懐いてくれたことの方がよっぽど重要だ。
毎日、他チームの牽制で忙しいのか、普段擦れ違うときは苛々している先輩が、この瞬間だけは穏やかに寝息を立てている。
そのことが、まるで人見知りの激しい黒猫が俺にだけ心を開いたように甘えてくるみたいで、とても心がポカポカする。
寝ている先輩の機嫌を損ねないように、俺は傍らで静かに読書をしているだけ。
けれど、暖かい日差しが窓から差し込んで無意識に顔が綻ぶ。
嗚呼、暖かいな。
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