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凍てつく冬の夜。
買い物から帰る途中で見かけたのは、雨に打たれ、うなだれながらベンチに腰掛ける男の人。
このままでは風邪を引いてしまう。
そう思って、近づき声を掛ければ、驚いたように此方を見上げる赤と黒の瞳。
俺はつい息をのんだ。
殴られ、頬は腫れこそすれども、そのあまりにも整った顔立ちと、赤子も黙るほど有名な彼の名に。
「だ…大丈夫ですか…?」
「……」
ポカンと可愛いくらいに間抜けに口を開けながら見つめてくる彼。
まるで、自分が話しかけられることなど予想していなかったように。
そりゃ、俺だって分かっていたら声掛けませんでしたよ?でも、掛けてしまったものは仕方ないので、続けますとも。
「怪我…してますよね?家近くなんです。手当したいのでついてきてもらいますか?」
「……」
またもや予想しなかっただろう言葉に、何か企んでるのではと目つきが鋭くなる。
俺はそれに内心ビビりながらも、いつまでもこうしているわけにもいかないと、ビニール袋を持ち直して、自宅方向を指差す。
「あっちです。」
「……」
相変わらず返事は無かったけれど、歩いてしばらくして後ろから足音が聞こえたので、振り返って傘の中に入れた。
大人しくしてくれている姿はまるで借りてきた猫のようだった。
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