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振り向いたイザギの瞳は見たこともない色をしていた。
いつもと同じ赤の筈なのに、目をそらせない。目をそらせないのに早く逃げなくてはと思う。
「イ…ザギ?」
「………帰れ。」
イザギの声は色を帯びていた。脳が鈍器で殴られたかのようにぐらりと揺らぐ。
そういって顔を背けたイザギによって金縛りのようなものは解けたが、俺は動けなかった。
いや、動かなかった。
今ここで、動いて逃げたら、もう二度とイザギに会えない気がした。
「イザギ…」
返事はない。きっと声を出すことを控えているのだろう。俺は構わず続ける。
「…俺は帰らないよ。」
「っ…!」
驚いて何かを訴えようとするイザギと目が合った。けれど、先程のような感覚を味わうことはなかった。
「ほら、今俺はイザギを見つめてられる。イザギ、今飴を舐めてないんだろう?でも飴は沢山あったから、飴なんかじゃ誤魔化せなくなってきたんだろう?」
慌てて目線をはずすイザギの肩が小さく揺れる。
「……帰れ。お前は此処にいちゃいけない。」
「なんで?」
「俺は今本能に逆らえなくなってきている。このままではお前を襲ってしまう…」
「いいよ。」
「だから帰……は?」
イザギは心底驚いたのか、目を丸くして此方を見る。
「イザギになら飲まれてもいいよ。何百年も我慢してんだ。仕方ないよ。だけどそのかわり…俺の前から居なくならないでね?」
俺はゆっくり歩み寄り、イザギに抱きつく。
「イザギ…好きだ。」
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