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………マジですか…
私は部屋にある荷物を見て愕然とする。
共同のリビングには私の荷物ともう一つ。
つまりは、同室者は転校生=王道君だ。
ここで、私は無意識に忘れていた可能性を思い出す。
もしも、王道君がアンチ王道タイプだった場合の話だ…
その場合、王道君は人の話を聞かずに持論を強制する自己中心的な人間で、副会長が惚れた時点で、アンチ生徒会となってしまい、生徒どころか学園全体が荒れてしまい、同室者ということから親友宣言されるであろう私は巻き込まれパターンでリンチに遭ってしまうということだ。
そうなったら、萌えどころの話じゃないし、万が一途中で元に戻ったら、椎名にも迷惑をかけてしまう。
それでなくても、彼のために目立つわけにはいかないのに。
私が頭を抱えていると、不意に部屋の扉が開く。
「うぉぉ!!すっげえ!!」
…………来た。
そして、王道らしい大きな声。
勢いよくリビングの扉が開かれ、王道君と目が合う。
「あ…アンタ…!」
「…?」
息をのむ王道君。
…………うーん…うん…なんか…うん…
……ダサい。
いや、王道君はそうでなければいけないのは分かってる!ボサボサヘアーに瓶底眼鏡で顔を隠す。きっと素は可愛い系の美人さんなんだろう!分かってる!分かってるけれどもっ!!
やはり、目の前で見ると萎えてしまう。
せめてアンチタイプじゃないことを切に祈ろう。
「…アンタ、格好いいな!!名前は!?」
「先に名乗ってくれ。」
ヤバい、ついしかめ面をしてしまった。嗚呼、アンチかアンチなのか。名前を訊くなら先に名乗るくらいの常識も分からないのか腹立たしい。
そう考えていると、目の前の王道君ははっとして申し訳無さそうに謝罪した。
「わ、悪い…そうだよな!先に名乗らねえとな!俺、赤石史芦って言うんだ!"シロ"って呼んでくれよ!!」
…お?これはアンチじゃないかも?
名前は(調べていたから)知っているけど、それを強要してくるみたいでも無いし…
私の早とちりかもしれないな。
「そうか、俺は朝影椎那だ。よろしくなシロ。」
「……っ…おぅ…!」
お詫びも込めて、微笑みながら名前を呼んでやれば、息をのむ音が聞こえた。
それからしばらく王道君もといシロくんと話してみたが、少しずれているだけで、常識はちゃんとあるし、感謝も謝罪も述べられるいい子だった。
まぁ、やっぱり親友宣言をされたが。
「………てなわけさ!」
『お前なぁ…』
そして、現在、電話にて今日の報告を事細かに椎名に報告なうです。
ちょっぴり素が出て、興奮気味だったのは致し方あるまい。
「ん?」
『フラグとか何とかは立てないんじゃなかったか?』
「だから、立てて無いじゃん。」
『……………ハァ…』
なにやら、さっきからやたらため息をつかれる。どうしたんだろうか。
『とりあえず、目立たずに行動しろよ。あと喧嘩は買うな。』
「任せて!頑張る!」
まぁ、腐女子的利益を優先しますが。
「じゃあ、また明日もするね。」
『あぁ。』
「おやすみぃ。」
『あぁ。お休み。』
通話が途絶えてから数秒、私はそのままだった。
椎那の真似なら、椎名の両親のお墨付きだから心配は要らないし、学園生活も楽しみだから不安はない。
ただ、あの椎那の私を困ったような微笑みで見つめる姿は見られないんだなとか、こうやって誰もが私を椎那って呼んで、小豆はここに居ないんだなとか。
そうやって考えたら少し寂しくなった。
「まぁ…何とかなる…よね」
そう呟くと、私は不安を拭うようにベッドに入った。
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