挑戦 | ナノ


ショートカット



五月。

梅雨の時期に入る少し前、空気が温かくなり、葉の緑が濃くなり、風が気持ちよく吹き抜けるそんな季節。

そんな中で、教室という限られた世界で四六時中机に向かっている必要があろうか。

答えは否。

やはり、外に出て緑の空気を吸わなければ。

俺は大きく伸びをしながら息を吸う。

やはり、天気がいい時は外に出るに限る。空気もおいしいし、空は青いし、スカートだし…

……


「ッ?!」

「やあ。」


学校の裏の小さな丘で寝そべり、優雅にサボっていた俺の司会は青から紺のスカートに変わり、そのさらに上でにっこり笑う少女の顔が見えた。

黒髪のショートカットはふわふわと風に揺れ、白くてなんの化粧をしていない肌は薄紅の唇を大きく弧を描かせながら輝いていた。

…なんかまどろっこしい言い方をしているが、要するに学校一の美少女が俺の顔を覗き込んでいたわけさ。しかもあともうちょっとで見えそうなギリギリの体勢。何が見えるって?言わせるなよ。


「今日もサボりかな?」


そんな少女は笑顔のまま問いかける。

俺は内心のドギマギを抑えつつ、軽くあしらう。


「うっせ。」


その返答にさらにニコリ。

そして、さも当たり前のように俺の隣に腰掛け、空を仰ぐ。


「…空は広いね。」

「まあな。」

「空は青いね。」

「ああ。」

「風が気持ちいね。」

「だろ?」

「……」

「………」


会話っ!会話プリーズ!!

さも普通に会話しているように見えたか?違うぞ?俺の頭の中はクエスチョンマークとエクスクラメーションマークだらけだ。

(うおおおおおおお!!!何故学校のマドンナが隣にいいいいい!!!????)

ってな感じで、おかげさまで大混乱中。そっけない返事しかできていないわけだ。

一方の彼女はといえば、全く気にしていない風で、ぼーっと空を眺めている。

ふと、


「なあ、」

「ん?」

「…まだ授業中じゃね?」

「うん。」


空を見つめたまま当たり前のように答える彼女に俺は首を傾げる。

暫くして、彼女が俺の方を振り返る。


「三日前、君、サボったでしょ?」

「ああ。まあな。」

「その日も空は晴れていて、数学を受けながら空を眺めていて思ったの。いいな、って。」

「何が?」

「サボって、青空の下、のんびりと過ごすの。」

「なるほど、俺が羨ましかったわけか。」


彼女は笑って、「まあね。」といった。

そして、また会話が途切れるのだが、先ほどまでとは違い、のんびりとした雰囲気に包まれた。

そっと彼女を見やれば、ふわふわの髪が風にたなびく。

その眼差しは力強く、しかしどこか儚げで。

言うまでもない、俺は見とれてしまった。

金縛りにあったかのように見つめる俺と彼女の目が合うと、彼女は一度目を丸くした後クスリと笑った。


「今、見とれてたでしょ。」


そうやって笑う彼女の笑顔もキラキラ輝いて。

俺は顔が赤くなるのを感じた。




……しまった。


ショートカット
(心臓が、うるさい。)




 
 
   
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