消えるだけの雪
また春が来る。
色彩豊かな暖かな日々。蝶が舞い小鳥がさえずり仄かな甘い匂いを漂わせる花。
その全てが嫌いだった。
「沙遊奈、綺麗?」
「うん。凄く。」
私の前を晴れ着姿で嬉しそうに舞う私の親友。今日は彼女の結婚式。相手は、
「出来ましたかィ?」
「うん!総悟、似合ってるかな?」
「勿論でさァ。」
恥ずかしそうにはにかむ彼女は気づいてない。彼と私の目が合っている事に。
「ちょっと、沙遊奈と話があるんですが良いですかねィ?」
「…う、ん。分かった先に行ってるね。」
歯切れ悪く承諾した彼女は私を一度睨みつけてから部屋を出て行く。
私たちが彼に出会ってから彼女は私が嫌いなのだ、私も彼の事が好きだから。彼女は私を偽善者と呼んでいる。
彼女が居なくなったのを見送ってから袴姿の彼が私の隣に腰を下ろす。
「結局最後まで返事くれなかったな。」
いつものふざけた雰囲気を消して、真面目な声で彼が言う。
「お前は俺の事が嫌いなんでェ?」
「……好きだよ。」
「じゃあ…なんでっ…」
「親友を裏切りたくないの。」
彼は私を愛してくれた。好きだ、付き合おうとも言ってくれた。私も好きだって言った。でも付き合えないとも言った。
彼が好きなのと同じくらい彼女が大切だったから仕方ない。
「アイツはお前を裏切ったのにかィ?」
「…関係無いよ。」
「アイツに押されて事故にあって下半身不随になったのに?」
「……」
「…俺の事は裏切っても良いんでェ?」
「…好き。お願いずっと私の傍に居て!」
そう叫べたらどれだけ楽になるんだろう。きっと彼は喜んで了解してくれるだろう。それが私は一番怖いんだ。彼を縛り付けたくないから。
「ごめんね。」
春は嫌いだ。
どんなに頑張っても、春が来れば雪は解けてしまう。それは私の想いのように。
解けない雪は無い。
消えない想いは無い。
消えるだけの雪。
解けるだけの想い。
「好きだったよ。…総悟。」
end.
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