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*学パロ



駄菓子屋で飴とか、きな粉棒とか目をひくものばかりを小さなかごに詰めた。
10円の飴は、水色、濃い桃色、黄緑色…パステルカラーのもの。美味しそうというより綺麗だったから。




帰りに雨が降ってきて服をびちゃびちゃにしたまま帰った。制服のまま出かけたのでワイシャツが透けている。


風介が勝手にテレビを占領していて、またかと思った。風介はどこからか持ち出してきた古いテレビゲームをやっている。いつだったかレトロゲームが好きだともらしていたっけ。



俺は口に濃い桃色の飴(おそらく苺味だ、とてもそんな味はしないけど)を口に含んでワイシャツを脱いだ。脱いだワイシャツを部屋の洗濯かご(まとめて出す)に投げ付けようとしたが、運の悪いことに風介の頭に当たった。

……まずい事をした。





風介は黙ってポーズ画面に切り替える。そして頭の上のものをとると、ぎゅっと抱え込んだ。
てっきりこっちに投げ付けてくるかと思ったのに。面食らった俺は風介からワイシャツを引ったくろうとした。でも風介は放さない。


「お前さぁ、陰湿な苛めはやめようぜ」



「…晴矢と雨のにおいがする」



「ったりまえだろ、ほら、早く寄越せ」



少しばかり気持ち悪い風介の言葉は軽く流して、俺は寝転んでいる風介の横に移動した。上半身が裸のままなのでとても寒い。早く着替えてしまいたかったのだが、風介がそれを許してくれそうもなかった。



「嫌だ。落ち着くから、もう少し嗅いでいたい」



「お前気持ちわりーぞ!いいからとっとと寄越せ!洗濯機に入れにいくから!」



「うーうるさい…」



「誰がうるさくさせてんだよっ!」




尚も風介はワイシャツを放そうとしないので、馬乗りになって強引に引ったくる。はたと風介はこちらを見た。目を見開いている。風介の目は雨模様の空と同じ色をしていた。




「晴矢……」



「んだよ」



「上半身裸で、エロい」



「……………」




俺は無言で風介の腹を殴って洗濯機のある洗面所に向かった。家の中は薄暗く、湿っぽい。でもなんとなく心地好かった。ひたひたとひんやりした床に吸い付く足も、何もしてなくてもすぐに閉まってしまう扉も。一人だと寂しいだけのこの家も、想う人がいるだけで随分と変わってくるものだ。



上半身を空気に曝したままアイスココアを作る。牛乳で作ったので絶対美味しいはずだ。マグカップを二つ持って階段を上る。少しだけ急なこの階段も、何の苦にもならない。部活の合宿をして帰ってきた後の、この階段は本当に地獄だった。たまに階段で寝てしまう事もあった。





「おら、飲めよ。紅茶がいいとか言ったら殺すぞ」



「ん、…牛乳多過ぎないか」



「…うっせーな、それくらいが美味いだろ」



「だから君は通知表にも、(少し大雑把過ぎるところがある)とか書かれるんだよ」



「ほっとけ!…って、何で知ってんだよてめー!」



「君のことは何でも知ってるよ」



「さっきから気持ち悪過ぎだろお前…頭打った?」




紐付きの飴を一旦口から出してココアを口に含んだ。飴を舐めていた後なので甘い。それがまた美味しかった。風介はご馳走様、とマグカップをたくさんのがらくたが乗っているテーブルに置いて俺が片手に持っている苺味の飴に噛り付いた。そのまま強引に紐ごと持っていく。



「…お前なぁ…。」



「美味しくないな…。」



「10円の駄菓子に美味しさなんて求めんなよ」



「そうか、10円か。その割にはとても綺麗だな。」



風介は苺味の飴を窓に透かした。窓の外は鈍色に濁っている。改めて見たこの部屋は鈍色に染められて汚らしかった。いらないものばかり散乱していて、足の踏み場も殆ど無い。生活臭がだだもれで、でもこんな場所が好きだった。俺の居場所だから。
テレビには黒い背景に白い文字でGame overとだけ表示されていた。風介が負けて、そしてそのままやめているなんて珍しかった。いつもは勝つまでやり続けているくせに。

白い文字が厭に突き刺さってくる。負けたわけでもないのに、何となく敗北感を味わっていた。
駄菓子屋の袋から青い紐付き飴を出して舐める。今度は何の味か分からなかった。





「10円でも、」



「、あ?」



「こんなに綺麗なのに。」




「………何の話だよ」



「こんなにお金をかけて育てられてきた私達は、なんて汚らわしいんだろう」



「…ばっかじゃねーの」





もう既に、風介が家出して家に転がり込んで10日経とうとしていた。

無理矢理舐め始めたばかりの飴を割って、俺はテレビの電源を落とした。

そして軽く、風介の頭を殴った。








世界の終わりは案外近い











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汚い部屋の方が落ち着きます



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