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人間、酒で駄目になった奴はいくらでもいるなんて言うが、その駄目になった奴は酒を呑んでいるのではなく酒に呑まされているのではないかと思われる。煙草も、麻薬もまた然り。適度に付き合わないからそうなるのである。世間では麻薬とは付き合ってはいけないのだが。
とは言っても酒が好きで好きで樽いっぱい浴びるように呑んでもけろっとしている奴もいるもので、実際それが私だ。しかし古い付き合いのヒロトはまた酒も呑まない、煙草も吸わない健康体な奴のくせに、大学生の頃呑みくらべ対決という馬鹿なことをしたときに私にぎゃふん(その際死語なんて言っている場合ではなかった)と言わせた男である。次の日二日酔いで最悪なステータスの中ぴかぴかの貼りつけたような笑顔で、レポート参考にしたいから見せてと言ってきた時は顔を見ながら玄関で吐いた。気持ち悪さとヒロト死ね、という殺意と怠さでいっぱいの吐瀉物を見たヒロトは、あーあという表情で勝手にアパートの中に入って雑巾を取りに行った。だる、きも。



「あれ、珍しい。恋人さんはどうしたの」
「……来てない、課題が終わらないとかで」
「手伝ってあげれば好感度あがったのに…残念残念」


全然残念ではなさそうな軽い声で私の吐瀉物を拭く。もう立っているのもしんどくてソファに顔面からダイブした。あ、晴矢の匂いがする。



「ほら、気持ち悪い顔してないでさっさと布団に寝る」
「…してない、うぼえ」
「もう喋んないで…。とにかく布団に移すよ?」
「う"〜ん」
「はいはい、いくらでも唸って」




布団でおえおえ言っている時もヒロトは携帯で誰かに話をしている。あ、ヒロトソファに座るな、晴矢の匂いが



(うんうん、…だからさー課題俺がやるから来てやってよ。もう彼、君がいないと死にそうだから。…え?あ、そう?奢ってもらうなら、そうだなあ、芋焼酎が呑みたい!…ふふ、たまにはいいじゃない。なんたって鋼鉄の胃袋だからね、え?関係ない?)





誰に何を話しているんだか……。意識を飛ばしかけているときに玄関のドアの開ける音がした。程なくして目の前にはよく見知った顔。え、あ、晴矢?



「お、おい大丈夫か?馬鹿だなー酒何十本あけたわけ?」
「…………はるやああぁぁ」
「……ぷあっ酒くさっ!何か口にがっ!あんた今キスすんじゃねーよ!」
「晴矢、ヒロトが、気持ち悪くて玄関が、あの、殺す…から吐いた」
「………もう寝ろよ」
「色気のない会話だなあ…」
「あ、ほらよ、芋焼酎。あんたも渋いモン呑むよな…。ワインとかが好みなのかと思ったら」
「やったー!基本的になんでも呑めるよ。ボンボンとかはあんまり口に合わないけど」
「…家セレブなくせに。課題よろしく」
「はいはーい。ねえ、此処でやっていいの?お邪魔?」
「こいつがこの状況で何をやるっていうんだよ…。ただの介護だろーが」



晴矢がこっちをちらりと見た。心底呆れている。なにおう、君が一番下戸なくせに。またキスしようとしたら殴られた。ゲロくせえあんたとキスなんか出来るか、ってあれ、愛が薄い。涙が出てくる。



「ほらほらー晴矢も呑もうよー」
「昼間っから…。ていうかジョッキで呑むなよ化け物かよあんた!」
「あははおいしー」
「いっつも酔った様な顔しやがって」
「嬉しいなあ」
「褒めてねえ!」




いいなあ、楽しそうに。というか何故晴矢楽しそうなんだよりによってヒロトと。やめとけ、あんな男。じゃない、今付き合ってるのは誰だと思っているんだ。



「…………。」
「晴矢くぅ〜ん、風介くんが睨んでくるぅ、こわぁい!」
「風介、うん、大丈夫、こいつとは絶対ない」




とかなんとか言いつつそれからも楽しそうに二人は呑みながら課題を片付けていた。しかし少しして、晴矢は生粋の下戸だ、ヒロトについていけるわけもなくギブアップした。




「………」
「晴矢、生きてる?」
「ぴ、ぴんぴんだし…生きてるぴょん」
「え?大丈夫?」
「そういえばよーぴんぴんといえば風介がこの歳になってもよー盛ってくるんだよ」
「いやあの、そこに風介いるんだけど」
「別にいいんだけどよ…ただ俺は次の日に響くんだよ!あんたさ…三回もさ…出されたらさ…次の日大学いけねえから!」
「…………うん……」


やめろ。こっちを見るな。若気の至りというものがだな…。



「なのにあいつ俺置いて一人で大学行っちゃうんだぜ…。いいよなー突っ込む方は。楽で。腰も痛くないし。ずりい……俺にも突っ込ませろ……」


断固拒否する。



「ならさー俺がやってもいい?一回しかしないし、優しくするから」
「……………。」
「ぱんぱかぱーん、お代は課題とレポート4つ。」
「やる」
「おいコラ待てや」



流石にどんなに吐きそうだろうと聞き逃せないこともある。えーっと不満そうなヒロトとぼそりとレポートと呟く晴矢。まさか…本気だったんじゃないだろうな…。



「わかった…私はレポート4つに課題3つ付けよう!」
「きゃあー!風介君優しいー!流石俺の選んだ人っ!」
「ええぇー…わかったよ、ねえ晴矢、バイク、欲しくない?」
「!!」
「………ちょっと、人の恋人たぶらかそうとするな阿呆!」
「………バイク……!」
「ちょ、ちょっと晴矢………うげ、え」
「決まりかな」



最悪。なんだその勝ち誇った笑み。君、あれだろ。晴矢が好きなんじゃなくて私をからかって楽しいだけだろ。否、知ってたけどね。



「バイク…大型…バイク…」
「そうそう、いいの買ってあげるよ」
「………だああぁっ!!!晴矢の馬鹿!!君は誰の事が好きなんだこの尻軽!」
「なっ…本当にヒロトに走るぞ畜生!……ゔ、」


と、急に晴矢が立ち上がって走りだした。トイレに駆け込む音と水音がする。ああ、私と同じ道を辿っている馬鹿がもう一人。



「よかったじゃない、二人で寝てたら?」



ヒロトは芋焼酎をジョッキで呑みながら(すでに中にはほとんど入っていなかった)課題を取り組んでいる。何がよかったのかよくわからない。



「…本当にバイクで釣るなよ。私のバイトが水の泡になる」
「あーバイトのお金で買ってあげるって言ってたもんね。喜ぶよ、きっと」
「……やはり冗談か」
「心配しなくても、晴矢は君しか見えてないよ」





ヒロトは帰ろっかな、と課題をまとめ始めた。どうやらレポートは終了したらしい。手際のよい奴だ。



「じゃあ、この課題見せてね。借りてくから。お二人さんお大事にーお幸せにー」
「もうくんな」



ヒロトが風のように去っていったあと、晴矢がトイレから出てきた。晴矢は青ざめた顔で一言、死にそうとだけ言った。ぽすぽす、と布団を叩くとおとなしく入ってきた。





「考えてみたら、私たちがこうなってるのはあいつのせいじゃないか?」
「ああ、だろうな……」
「今度大学で会ったらぶん殴る」
「…俺はバイクよりも時間が欲しかったからこれでいいや」
「頭痛くて気持ち悪くてもか?」
「おうよ」




振り向いてキスをしようとしたらゲロ臭いから嫌だと顔を退けられた。君もゲロ臭いだろうと口を塞ぐ。酒は人をおかしくするのか。においさえもどうでもよくなってきたが、こうして時間を作って傍にいることが出来るのは憎きヒロトと酒のお陰なのである。多分。

















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