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ただの捏造

「練習試合が初対面だったら」って感じです













アメリカのチームと練習試合をした。負けない自信はあったし、実際楽勝、とは言えないものの勝利はおさめることが出来た。



試合後、トイレに入るとアメリカのキャプテンが鏡の前で洗面台を見ている。マーク、だな。と名前を確認しつつ何かと思って近寄ると、彼は気配に気付いたようでばっ、と振り返った。綺麗なエメラルドブルーをした瞳は充血して哀れなほど真っ赤に染まっていた。頬には幾度も涙が伝った跡がついている。





「君…………、」



「見るなっ!!」



伸ばした手はあっさりとはねのけられて行き場をなくしてしまった。後ろを向いて必死に目を擦っている様は、さっきフィールドで見ていた彼と全然違う。あんなにも大人っぽくて気丈そうなのに。

こんなにも、か弱い。





「……………泣かないでくれよ…。」



ついため息と共に弱音をもらしてしまった。彼は一瞬ぴくりと肩を揺らしたが、まだ目を擦っている。しばらくしてからこちらを向いたときには、彼の目は腫れて、見ただけで切なくなるような顔をしていた。
あーあ、と思う。
ポケットからハンカチを出して水で濡らして彼の目にあてた。



「ありが、とう」



たどたどしい言葉。基本的には女の子にしかこんなことしないんだけどなぁと思いながら、両目にぎゅっとハンカチを押しあてている彼を見ていた。
フィールドで見た彼は精悍そのものだったのに、よくよく近くで見てみると手つきや体のラインに少しの女っぽさを感じた。心の臓を打つほどそれは魅力的で、美人にナンパをして見事にかかってくれた時よりもときめきを覚える。はやく、はやく充血をしていない綺麗な目が見たい。




「何故泣いていたんだい?何も練習試合で泣くことはないだろう」



「…君には、分からないだろうな。悔しいんだよ。みんなの為に勝てなかったことが。」



「そりゃあ、俺だって…」



「勝利しか知らない奴に俺の気持ちは分からないさ」



吐き捨てるような言葉に、一瞬時が止まった。彼はごめん、と下を向く。




「俺だって勝利しか知らないわけじゃない。たくさん負けてきたから、実力を付けることが出来たんだ。」



「……うん、知ってる。ごめん、八つ当たりした…。」



彼はますますしおらしく、小さくなった。案外ナイーブだなと思いつつ、何故か女の子にするみたいに肩に腕を回すことが出来ない。どう考えても女の子にするよりも簡単な筈なのに。
彼が無意識に拒否を表しているわけでもない。両目を押さえて話をしているのはどう見ても無防備だ。つまりちょっと頑張ればキスも出来る。




「廊下に出ようか。こんな所も息苦しいよ」



「…何で俺と一緒にいるんだ。ハンカチ、洗って返すから戻ってくれていいんだぞ」



「いい。……ほらいいから、こんな所にずっといたらもっと沈んじゃうだろ」





廊下の冷たい床に彼と一緒に座る。彼はずっと両目を押さえていたハンカチをぺらりととった。目の腫れは少しひいて、充血もほとんど無くなっている。再びエメラルドブルーに目を奪われ、ばっちりと目が合う。向こうは少しだけ気まずそうに目をそらした。



「ごめんな、俺がこんなに子供っぽい奴だと思わなかっただろ。」



「別に。負けたら誰彼構わず八つ当たりしたくなる気持ち、すごく分かるよ」




「うん、ありがとう…。すっきりした」



弱々しいけれど、確かな笑顔を見た。控えめな微笑みはあまりチームメイトや周りの人間は見せない。その時、俺はしっかり彼に惹かれていたのだ。その微笑みに持ってかれてしまっていたのだ。あまりにも唐突な感情に、自分でもついていけていない。




「綺麗な眼だ、本当に。」



知らず知らずの内に言葉が出てしまっていたらしい。彼はきょとんとしてから、「普通の色じゃないか」と笑った。



「イタリアにだって似たような色の目の奴たくさんいるだろう?」



「そういう事じゃなくて…、君だから似合うんだよ」



「イタリア人はそんなに口説くのが好きなのか?」




残念ながら俺は男だ、と彼は顔の横でひらひらと乾きかけのハンカチを揺らした。イタリアはそんなイメージをもたれているのか…。



「そんなんじゃなくて、」



「でも…フィディオの目も綺麗だ。凛凛しい色をしている。海みたいなね。」



こっちを見て目を細めて笑っている。彼はもう警戒心は全くもっていないようだ。心を許した人にはとことん甘いタイプだなと思った。



「俺もそんなエメラルドブルーの海に溺れてみたいな……」



「何だそれ、本当に口説いてる?」



「…………だとしたら?」



「え」



彼はその瞬間体を固まらせて困惑した表情でこちらを見るだけになってしまった。ほんのりと朱のさした頬を見るとまんざらでもないな、と分かる。




「そういうからかい方は嫌いだ」



「からかってない」



「陰湿だな…やめてくれよ」



「そうかな、その言葉と表情噛み合ってないけど?」



「!、何が、そんなわけ、」




顔中を真っ赤にしていく彼を見て、咲き乱れる薔薇みたいだと思った。




「ねぇ……マーク」




固まって動かない彼にゆっくりと顔を寄せる。もう少し、あと少しで彼の唇に到達しようとしたとき、遠くから「マーク!帰るよ!?」と声が聞こえてきた。




「、ディラン…?」



打たれたように彼は飛び上がってバタバタと廊下を走っていく。呆気にとられながら俺は廊下でぼーっと座っていた。なんというタイミングの悪さだろう。





「まぁ、いいかな…」




あの調子ならチャンスはあるだろう。なにせ貸したハンカチは彼が持っていったままだ。彼が借りている物を返さない性格にも見えない。絶対に返しに来るはずだ。



意外と恋愛が苦手そうだったな、と悠長なことを考えながら俺は廊下を歩きだしたのだった。





























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