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カーテンの隙間から光がもれている。

意識がはっきりとしない。俺は布団に埋もれたままうとうとしていた。微かにヒートの残り香がする。


まだ寝ていたいという気持ちに混じって、いい匂いが漂ってくる。ドアが少しだけ開いていた。その匂いに誘われてよろよろと起き上がる。朝日が眩しくて逃げるように部屋を出る。




キッチンからは何かの焼ける音と、さっきよりも強い美味しそうな匂いがした。おぼつかない足取りでキッチンへと向かう。見覚えのある後ろ姿を見た。




「あ、晴矢?まだ寝ててもよかったんだぞ?」



朝日より眩しくなくて優しい笑顔が目に飛び込んできた。隣に寄っていくとヒートはハムエッグを作っていた。焦げないようにしながら合間にサラダを作る。さすが専門だな、と思いつつ後ろから抱き付く。温かくてまた眠たくなった。




「晴矢、動けない………。」



「んだよ、俺より料理の方が大切だって言うのかよ……。」



「………もしかして昨日の酔い残ってるのか…?」



「…………。」




後ろからため息をつく音が聞こえた。呆れたため息じゃなくて、しょうがないと自分自身を諭しているような。


ジューっとおいしそうな音とトントンと野菜をきざむ音がすぐ近くで聞こえる。昨日の夜を思い出した。俺がチューハイを買ってきてヒートが帰るのを待ってたら、ヒートはワインを買って帰ってきたんだっけ。俺はサラミ、あいつはカマンベールチーズ。趣味と品の違いを思い知らされたけど、結局交互に飲んだりして。サラミとカマンベールチーズは相性が良くてつい俺は飲み過ぎたんだ。


曖昧だが、布団まで運ばれた記憶がある。今味わっている温かさと同じ温かさ。




(あ、やばい)


一瞬ふらりとした。二日酔い?温かさが離れた。体に重い衝撃。




「晴矢っ………!?」



ヒートがびっくりした顔で後ろを向いてしゃがみこんだ。上半身を起こされる。体がじんじんと熱かった。整った顔が近い。


大丈夫か?と言うヒートの言葉を無視してヒートの首に抱き付いてキスをした。バカみたいだ、こんな朝から。最初は目を見開いていたヒートも目を閉じて俺の腰を引き寄せた。






どれくらい経ったんだろうと思っていたら少し強めに唇を押しつけられてそのまま離れた。ヒートは優しく微笑んで、額にキスをして立ち上がる。
と、後ろを見て愕然とした。



「あっ…ハムエッグ!」



慌てて火を消す。俺は立ち上がってフライパンを覗き込んだ。そこには黒く焦げていかにも体に悪そうなハムエッグだったものがあった。フライパンは焦げ付き洗うのが大変そうだ。俺はそそくさとその場を立ち去ろうとする。
ヒートの白けた声が聞こえた。




「晴矢……どこに行くんだ?」



「…二度寝しに」



「この状況を作ったのは誰だ」



「……ふ、二日酔い…、じゃなくて俺…。」



「今日一日キス責めの刑にするぞ?」



「…フライパン洗いマス…」



そう言ったらヒートは満足したのかよしよしと頭を撫でてまた額にキスを落とした。子供扱いをされたことに不満な顔をすると、ヒートははいはいと苦笑をして頬に手を添えてディープキスをした。





「ん、…はぁ、キスしろなんて言ってない…!」



「晴矢が物欲しげな顔してたから」



「…ばっかじゃねーの…」





結局キス責めされるんじゃん、と愚痴をこぼすと、ヒートは休日くらい良いだろうと笑った。その笑顔に弱いとヒートに悟られてしまったので太刀打ち出来ない。




「も、お前最近ヤダ…!恋人からかって楽しいかよ…」



「ああ、可愛いから。凄く楽しいぞ」



「っサイアク!」



「愛してるからするんだ、晴矢。」



なら、少しだけ趣旨を変えよう。キス責めとフライパン洗い、どっちがいい?



ヒートはまだ笑っている。腰を両腕で固定されているので逃げることは出来ない。俺は大げさにため息をついた。




「わーったよ…キス…でいい…。あ、でも朝飯食ってからな!」



「ふふ、仰せの通りに。」



そう言ってまた頬にキスをされた。




今日だけは許してあげよう、久々の二人の休日だから。
まだ酔いがさめないだけだ、と俺は心の中で言い訳をしてまた近づいてきた顔に目を閉じた。




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ヒートの笑い方を打ち間違いして「ふへ」と打ったのは笑える思い出



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