「バーン、ちょっと用が……、」
バーンが談話室にいると聞いたので、用事を切り出しに談話室に入る。しかしそこにいたのは、ソファに横になり気持ち良さそうに昼寝をしている彼だった。
呑気なものだ、とため息をつく。他に誰もいないからいいとでも思ったのだろうか。全く、無防備というか無考えというか。
「……ん…」
「!」
不意にバーンが寝返りを打つ。普段は絶対に聞かない少し高い声。呻き声だと分かっていても何だか厭らしい気持ちになる。自分のそんな気持ちは知らずにバーンは涎を垂らしながら寝息を立てている。
……………無防備、か。
何も考えず唇を重ねた。思ったよりも柔らかい唇。温かい、と心地好さに目を閉じた。誰に見られるとも分からないのに、全然気にしなかったのだ。
少ししてから目を開けると、目をぱちくりと瞬かせるバーンの顔が目に入ってきた。あ、と思うのと同時にどんっと身体を突き飛ばされる。手をついてバランスを保つけど、向こうはそれどころじゃないらしい。
未だに荒い息を吐いて、状況を理解しようと足りない頭をフル回転させている。お陰で言語までは頭が回っていないようだ。
「お、おま…今、何や、何やった……!」
「何って、分からないの?キ」
「やだ、やだ言うな!分かってる、から言うなぁあぁ」
「…………。」
我儘なやつだ。
「何でっ…俺男だぞ!それともなんだよ、実は俺かお前が女でした、みたいなやつか!?願い下げだよバカ!」
「落ち着け、私もお前も絶対男だ」
「じゃあ何でだよ!…あぁ、ごめん、やっぱり言うな、嫌な予感がする」
頭を抱えて再びソファに横たわった。完全にお手上げなようだ。依然意図のとれない言葉を吐き続けるその口にまたリップ音を立ててキスをした。
背もたれに手を乗せる。これで完全にバーンの逃げ道は無いわけだ。自然と口元が緩んだ。
そしてまたバーンがパニックに陥った。
「お前……何か今日こわい……!」
「そう?別に私は何も感じないよ」
「うあ!顔近い近い近い!」
「別にいいだろう、キスまでした仲なんだから」
「言うな────!俺は認めない───!!!」
大声で叫んだら何かの糸が切れたのか、バーンは泣きだしてしまった。混乱が大きかったのだろうか。
「泣かれても困るんだが……。」
「煩いぃ………お前が性格に不釣り合いな優しい…のするから悪いんだ!」
「…?優しい、何だって?」
聞き返すとバーンはボッと顔を赤くしてそのまま下を向いてしまった。
「……あ、キス?」
そっぽを向いて口をへの字にしながら小さく肯定をする。少し可愛い。
そうか、こういうキスが好きなのか。がっつく性格の割に珍しい嗜好だ。
「しょうがない、もう一度してやろう」
「別に頼んでなんかっ…ふがっ」
…………本当に色気のない………。
まぁキスをしている時の顔が情欲に塗れた顔をしているので許してやろう。
調子に乗って口からキスを首筋に移した時、
勢い良くドアを開けたグランと目が合った。
「「あ」」
バーンはグランに負けないくらい勢い良くソファから起き上がると、グランを見てびゃー!と猫とも未知の獣ともつかない泣き声を上げた。それに対するグランは、目じりに涙をためて笑いを堪えている。
バーンはなみなみと目にいっぱいの涙をためながらこちらを睨んだ。
「っガゼルのバカ!キス魔!節操なしー!!!」
あることないこと罵声を浴びせられて、おまけに思い切り殴られた。グーで。右ストレート、容赦ない。
バーンは走ってグランを押し退けて、ドアをも押し退け出ていった。ダダダ、と乱暴に走る音も聞こえる。バーンの様子を見ていたグランは壁を叩きながら爆笑していた。
「…………この、疫病神」
「えー?俺はキューピッドだよ!」
グランは笑いがおさまらないのか涙が溢れていた。こっちだって泣きたい。左頬が死ぬほど痛い。私は復讐にさっきバーンにされたことと同じことをグランに、渾身の力をこめてグーで頬を打ちぬいたのだった。
等身大の青臭い恋
(素直でいいじゃない!)
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