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彼の何が好きかって金色のまばゆい瞳とか、素直な言葉が出てこない唇とか、赤みのある白い肌とか。誰も認めないけれど確かに彼には色気が存在した。
俺を落としめるそれが存在したのだ、目に見えなくて分かりづらいけれど確かに、確かに!そしてその気高い(艶やかとも言う)存在を持った彼は今日も俺に微笑みかける。自惚れてもいないが、心地好いその場所。聖域、汚されて為るものか。笑っていても俺は常にその聖域のギリギリのラインを見ていた。俺は彼を神だとでも思っているのだろうか。それはないと自覚しているつもりなのだが、いかんせん立場が立場なので何とも言えない。つまり昔幼なじみだった彼を崇拝し、愛で殺しているのだった。凶器は瞳である。




*   *   *




彼は俺に微笑みかける。俺も微笑み返す。嗚呼、この時が一生続けばそれ以上は何も望まないだろう。勝利も、命さえも貴方様に。そんな事を考えていると不意に、彼はこちらを向いて「お前、なんか怒ってないか?」と口を開いた。俺は笑って「怒っていません。何故ですか?」と聞いた。彼は尚も不審な目でこちらを見つめていたが、赤い髪を揺らして「何でもない」と向こうを向いた。その仕草に酷く惹かれたけれど人が大勢いる手前何も出来ず、ただ彼の後ろにいた。
しかし何故彼は俺が怒っていると思ったのだろう?眉間に皺を寄せていたわけでも、小言を言ったわけでもないのに。お高い人の考える事はよく分からない。だが彼はよく家出をする義父さんの偽りの息子と、彼とよく似て正反対の好敵手よりは多少なりとも理解の出来る性格ではあった。理解も何も何年も共に在ったのだけれど。
何より彼の事を一番理解出来ているのは俺だと、譲れない自信があった。超す者は退く。力ずくでも。
そんな塵は要らないからだ。




*   *   *



「怖い」と彼は怯えた表情をした。俺はその光景をぽかんと見つめている。光景なんて言えないのだが、他人事であってほしいとせめてもの希望を表したのだ。
この、一介のチームメイトに過ぎない俺が絶対的存在の彼に怯えられてしまうとは!畏れ多いと言う事ではなく、ましてや光栄と言う事でもなく、ただただ愛で殺し続けた彼が離れていくのが怖いばかりだった。

「違います、何も俺は怒ってなんかいません。それとも何か、バーン様が怖がるようなことをしたでしょうか?」
「違う、違くて…ヒート、お前、お前さ」
「はい」
「……いつ、俺以外の奴と、一緒にいる?」



沈黙。唖然。俺は柄にもなく目を丸くした。彼の言葉に驚いたのではなく、質問に咄嗟に答えられなかった自分に驚いたのだ。だって、何故なら、それは、答えがこの関係の破滅を招くものに間違いなかったからだ。つーっと汗が頬を落ちた。彼は返答を待った。怯えよりも疑りに近い、どんよりとした金色の目をこちらに向けながらしっかりと白い床を踏み締めていた。俺が口に出した瞬間、貴方様は狂乱しそうな勢いで此処を駆けてゆくのですね。色々な感情を剥き出した目でこちらを見るのですね。もう後ろを任せてはくれないのですね。
俺に屈託のない微笑みを向ける事は、二度と無くなるのですね。


俺は逃がさないようにその白い細い腕を掴んで強引に引き寄せた。細い肢体はいとも容易く倒れる。そして神にするように、そっと唇を重ねた。目を少しだけ開くと、目を開けたまま固まっている彼がいた。拒みもしない、その顔、その腕。崇拝し、愛で殺し続けた彼をここまでおとしてしまった。あんなに高みで美しく居たのに。見惚れた所為で、引き摺り堕ろしてしまった。ごめんなさい、許して下さい。涙は出なかった。これ以上触れていることは出来ない、と悟ったので突き放した。その瞬間、俺は彼を無下にした最低になった。自分から引き摺り堕としたくせにその手を払ったのだ。彼は呆然とこちらを見ていた。ぐらりと意識が揺れる。何故って、目の前にいたのは崇めていた彼ではなく堕ちた彼だったからだ。これなら、どうでもいい。何も無い。困るなら彼も塵にしてしまえばいい。

(意識としては、幼なじみというものは必要のない単語だったようだ)

未だこちらを見る彼にまた一つ口付けをして、勢いよく押し倒した。虚ろな目は何も訴えなかったので遠慮はしなかった。
純潔にさよならを。俺はその時から、あの眩しい綺麗な彼を捨てた。



堕ちた彼を、無理矢理抱いた。

















「おはようございます、バーン様」
(おはよう、晴矢)
「……………。」
「今日は、何の練習をするのですか?」
(ねえ、今日は何の本を読んでくれるの?)
「…………今日は、」
「何だか動きたくて、昨日の夜からそわそわしていたんです」
(昨日の夜から楽しみにしていたんだ)
「………決めてない」
「じゃあ俺も一緒に考えますよ」
(じゃあね、じゃあね、晴矢が前に言ってたあれが読みたい!)
「ああ、じゃあ明日持ってくる」

「……?」

「だって、病院のベッドは退屈だろ?」

「     」



終わった。


























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