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※そんなにあれな表現はないですがマニアックです







「………は、ぁっ」




部屋のシャワールームで俺は泣きながらシャワーを浴び続けていた。別に暴行されたとかじゃない。肌もいたって綺麗だ。これ以上落ちる汚れもない。

しかし、だ。いくら浴びても浴びても、溢れだしてくる。止まらない。とろとろと。



これ以上どうしろと言うのか。乱暴に蛇口をひねる。下を履いて上半身は裸のままシャワールームを飛び出した。胸にバスタオルを押しつける。自然と震える腕を抑えつけた。
そっと胸を見て、また泣きだしそうになってしまった。


(どうしてこんなことに……!)

















ぼーっとしながら練習試合後の夕食を食堂でとる。今日は珍しく一人で食べていたのだ。ふと手を止めてダイヤモンドダストの女子たちの楽しそうな姿を見ていた時だった。となりにネッパーがやってきて座ったのだ。



「バーン様、あのですね…。」



「あ?」



これを研崎に渡せって言われたんです、と渡されたのは、綺麗な色の飴だった。淡い、オレンジと赤が混ざったような色をしている。さんきゅ、と言って受け取るとネッパーは少し笑ってから食堂を出ていった。
しかし、何故飴なのだろう?不思議に思いながら食事を済ませて、食堂を出てその飴を口に放り込んだのだった。


(プロテイン入りの飴とかかなー…)


そんなことを軽く考えながらシャワールームに入る。飴を完全に舐め終わって服を脱ぐと、何だか身体に違和感があった。


ぽたり、と床に水滴が落ちる。白く濁った、何か。

シャワーをまだ浴びてもいないのに、そんな液体どこから落ちてきたのだろう。天井から漏れているんだろうか?


上を見上げると今度ははっきりとした違和感を覚えた。さっと鏡を見る。


一瞬、唖然とした。発狂しそうになるのを堪えて鏡から目をそらす。そして胸に、手を当てた。濡れた感触。そして手から零れ落ちる何か。



「…………ひっ…!」



乳首から出る、白い液体と言ったら、あれしかない……!


どんどん自分が青ざめていくのがわかった。急いでシャワーを浴びる。白いそれを洗い流して、洗い流して、洗い流して。しかしとめどもなく流れるそれは最早どうしようもなかった。









ベッドで布団に包まりながらひたすら胸にバスタオルを押しつけた。次第にバスタオルが湿っていく感触に冷や汗がたれる。明日からどうしよう、こんなこと誰にも言えるわけないのに……!


時間が経つにつれて焦りも増してゆく。どうしようもない自分の非力さにずっと泣き続けた。






結局、朝まで寝られず。一睡もしないまま朝の光が射し込んできた。



(どうしよう…)



ちらりと胸を見るが現実は厳しかった。まだ溢れているその白い液体。何を思ったのか、舐めてしまった。独特の生臭さが鼻をつく。
別に美味しくも何ともなく、ただの味の薄い牛乳と言った感覚だった。



しかし牛乳に近いということはこれはやっぱり…



「ぼにゅ…う…?」




妊娠もしていない、ましてや女ですらない俺に母乳なんて出る訳がない。ということは必然的にあの飴、もとい研崎の所為になる。何故俺に、と思ったがすぐに思考は取り乱されることとなった。




「バーン様ぁー!練習試合始まりますよ!」



ボニトナの声で我にかえる。そういえば今日の練習試合前のトレーニングは自主的に、と伝えてあったのだ。応えなければ、出なければと思うのだがこの格好と状態では何も出来ない。サッカーなんて以ての外だ。


無視を決め込み布団の中へ。ボニトナはいないんですか?とドアを軽くノックするが、何も反応を示さないと去っていった。




一息つくと安心したのか眠気が襲ってきた。一睡もしていないのだ、そんな眠気に逆らえるわけもなく意識を手放した。




















「……………んん、」



布団とベッドシーツの間から見える誰かの足。だんだんと意識がはっきりしてきて、思わず飛び退いた。勿論胸にバスタオルは忘れずに。




目の前にはユニフォーム姿のガゼルがいた。表情は険しく、明らかに怒っています、とその顔が語っていた。思わず顔が引きつるが、この状態がばれないように我慢する。




「……………呑気に寝坊か、バーン」



「やー…ハハハ、試合どうなったんだ?」



「君のいないプロミネンスとの試合に敗けると思うかい?…完勝だったよ、様無いね本当に」



「そうかよ……悪かったな寝坊してよ…。試合出てたらこっちが圧勝だったんだろうけどな。」



「…ねえ、胸に何か隠してるの?」



にやりと笑ったガゼルに鳥肌が立った。身体中が危険信号を出す。




少しガゼルから離れながら笑う。うまく笑えているのかと不安になる。



「べ、別に…着替えるから出てけよ」



「別に…私がいたって着替えくらい出来るだろう?女じゃあるまいし」



女じゃあるまいし。

その言葉にびくり。と無意識のうちに体が震えた。しまったと思ったがもう遅く、しかし顔もあげる事が出来ずに下を向いてしまった。

墓穴を、掘ってしまった。




「ねえ、どうしたんだい?…まさか、君が女だったとか?笑わせる…」



「ち、ちっげーよ!いいから出ていけよお前!」



「胸に隠している何かを見るまで私は帰らないよ」



「………っこのやろ…!」



一瞬の隙をついてガゼルがバスタオルを引ったくった。慌てて腕で隠そうとするが両腕をベッドにぬい止められる。
そして必然的に飛び込んでくる、ガゼルの驚愕に丸くなった瞳。思わず羞恥に泣いてしまった。




「………ねぇ、なあにこれ」



「こっ…こっちが聞きてえよ…」



「…………………。」



ガゼルは眉を寄せてじっとその光景を見ている。じたばたと藻掻いてみるが全くものともしてないようだ。自棄になって小さくもうやだ、と呟く。



「…………おいしいのか、それ」



「長くためた後の言葉がそれかよ………。おいしくない、馬鹿なこと考えんなよお前」



「飲んでみたい」



「だから嫌だっつーの!もう離せよ、満足だろうが………っ!?」




ガゼルが思い切り乳首に噛み付いたのだ。そんなこと初めてだったので何が起こったのかわからなかった。胸から何か吸い出される感覚。おかしくなりそうだ。



「…………やだっ、やめろ馬鹿!」



「おいしくない。」



「さっき言っただろ!…最悪、馬鹿、変態……!」



「…ねえ、これずっと止まらないみたいだけれど、どうするの?」



「知らねえよ…。もう研崎のところ行くしかないんじゃねえの」



嫌だけど、と呟くと、ガゼルは何かいいことを思いついたかのように瞳を輝かせて身を乗り出してきた。




「じゃあ、私がきっと君のそれを吸い続けてたらいつか止まるんじゃないのか!」



「お前さっき不味いって言ってたじゃねえか!」



「“君の”ってプレミアムがついてるから平気だ!」



もう嫌だ気持ち悪いこいつ。俺はこんな奴に構ってられるか、とトイレに逃亡を図ったが勿論失敗し、そのままガゼルに押し倒される。



「ねえバーン、吸ってもいいでしょう?」



ガゼルの爛々と光る目に内心冷や汗が止まらないが、観念して目を閉じるといただきます、という声が頭上から聞こえてきた。



「…やっぱ無理!」



足でガゼルの腹を突き飛ばしてトイレにやっとの思いで逃亡する。どんどんと叩かれるドアと、まだアレの溢れる胸と、この小さな個室という絶望感。
俺はもうすでに泣くことしか選択肢は残されていなかったのだった。


















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テーマ「人外ファンタジー」
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