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電話で今から君の家に行くよ、とだけ告げて電車に飛び乗った。何をするわけでもないが、まあ恋人なのだし休日に会いに行くのくらい許してほしい。



晴矢がああ、と告げた電話口では雑音が飛び交っていたので多分外出していたのだろうとは思っていた。しかしまさか同じ電車に乗ることになろうとは。しかも同じ車両。人一人挟んでいるので肌と肌がつく程とは言わないが、奇跡と言うか運命というか。最初は人と人の隙間にゆとりがあったのだが、一駅通り過ぎるたびにぎゅうぎゅうになっていく。時間帯が時間帯なのか、都市の方から家に帰る人が多い気がする。中々背広の人も多いが。
どんどん車両の中央の方に押しやられて、晴矢の肩が私の鎖骨辺りにぶつかる。晴矢は全く私に気付かずに携帯を弄っている。ねえ、画面丸見えなんだけど。メールブロックくらい貼ったら?そう話し掛けようとしてやめた。そうだ。こんなチャンス滅多にない。この状況で出来ることをしようじゃないか。




「…………っ!?」



晴矢が大きく肩を震わせて息を飲んだ。まあ、私が晴矢の尻を撫でたのだ。晴矢は私の方に振り向こうとしたのだろうがその直後車両が揺れた。人がドミノのように傾いたせいで、晴矢は何もしないまま体を強張らせただけだった。そんなんじゃ、本物の痴漢に遭ったときにどうしようもないと思うけど。今度はさっきのようにするりと撫でるのではなく、鷲掴んだ。いい弾力だなぁと呑気にも揉みしだいていると、晴矢が息を詰めながら逃げ腰になっていくのがわかった。眉間に皺を寄せて泣きそうで、いつもの彼らしくない。普段は家にいるときですら触らせてくれないというのに。
思い出して少し苛々したので晴矢の耳元ではぁ、と息を吐いた。出来るだけ興奮したような吐息で。晴矢の手のなかの携帯が震える。現実を否定するかのように嫌嫌と下を向いて首を振る晴矢が可愛くて、尻のライン上を出来るだけいやらしく撫でる。そういえばあと何分で着くのだろうか。
携帯を開くと、まだまだ余裕があったので行為を再開することにする。尻から手を上に上げていき、服の上から横っ腹を撫でた。直ぐ様Tシャツの中に指を這わせ薄い腹筋へ手を移動させた。柔らかな肉はついているが、相変わらず無駄のないしなやかな体だ。この体に触れたら痴漢はやみつきになってしまうのではないかと言うほど。単純にいうと、やらしい肉体だということだ。こんなこと本人に直接言ったら撲殺されるだろう。覚悟の上だ。
腹筋から上へ上へ、緊張の所為か固く尖った突起に触れた。いよいよ晴矢は我慢出来なくなってしまったのか涙声でやめろ、と小さく呟き乱暴に首を振った。馬鹿だね、そういう反応は行為をエスカレートさせるんだよ。突起を摘んでくりくりと指を動かすと、もうどうしようもなくなったのか携帯をぎゅっと掴み動かなくなってしまった。それをいいことに突起を引っ張ったり押したりを繰り返す。しかし周りも気付かないものなのか。というか、晴矢にばれたら頬にビンタされて絶交宣言だろうな。それはそれでスリルがあって楽しいのだが。


もう片方の手で尻を揉む。と、よく見ると太ももが痙攣して内股になっている。まさかと思って晴矢の顔を覗き込むと晴矢は頬を少しだけ上気させて泣いていた。ああ、痴漢に触られて感じていると。


正直言うと前も触ってしまいたいような気もするが、流石にそれは後々何かあったときに面倒なのでやめておく。そして私の気持ちも昂ぶってきたのだがどうしたらいいんだ。この背徳的な行為に紛れもなく興奮している。参ったな。収拾がつかなくなってしまった。ぎゅう、と乳首を強く摘むと晴矢が大きくはあぁ、と湿った吐息をもらした。私はその声にぎょっとして手を離す。ちょっと、ここでそれはまずい。今の行為で目が覚めたので、私は降りる駅まで何もしないことにした。晴矢は熱が冷めてきたのか、また震えながら携帯を開いた。何をするでもなくぱかぱかと落ち着かない。多分時間を確認しているのだろう。

次の駅のアナウンスが入り、晴矢はびくりと震えてドアの方まで体を強引に持っていった。ドアが開いた途端猛ダッシュで階段を掛け降りていく。その様子が面白くてつい笑ってしまった。のんびりと階段を降りながら、遠回りをして行こうとぼんやりと考えた。

















玄関のベルを鳴らすと、一分か、そこらの間があった。がちゃりとドアが開き、私は数秒もしないうちに玄関に連れ込まれていて、晴矢が急いで鍵を掛けた。息も絶え絶えな晴矢に、私は努めて優しくきいた。



「どうかしたの?」


「………………。」



晴矢は何も言わないまま、私の方を見た。そしてぎゅ、と抱き付く。きつく、頭を私の肩口に押し付ける。服を掴む手が震えていた。晴矢の規則正しくはねた髪を優しく撫でると、晴矢は嗚咽混じりに泣き始めた。安心したのだろうか。



「で、電車で……」


「うん」


「さわら、れて」


「……うん」


「こ、怖かった、もうやだ」



目元を真っ赤にして子供のように泣きじゃくる晴矢がとても可愛い。私はまた晴矢の髪を梳いた。まあ、こんなにしてしまったのは私なんだけどね。だっていつもの晴矢はこんなことすらさせてくれないでしょう。夜だってそうだ、数えるくらいしか一緒に寝たことが無い。繋がった事なんて有りやしない。これくらい許してほしいものだ。恋人って、何だったか。




そういえばいつだったか、ヒロトに君は正真正銘の変態だよと言われた。どうして、とはきかなかったがなるほど、そうかもしれない。確かに私は興奮していた。本気で怯えている晴矢に、心底。あの状態で濡れ場にまで持っていく気がなかったとはいえ、確かに馬鹿げたことをしたなと思う。反省も、後悔さえもしてない私にはどうしようもないことなのだろうが。




「…どうかしたのか?」



下を見ると不安そうに晴矢がこちらを見つめていた。ううん、考え事、と私は晴矢の額にキスを落とした。涙を袖口で拭って、晴矢に微笑みかけた。



「忘れようね、晴矢。大丈夫、私がいるよ。」




私が肩を叩くと晴矢は大袈裟に震えた。あれ、この感覚。どうかしたの、と晴矢の顔を覗き込むと、晴矢は顔面を蒼白にしたまま何も言わなかった。



「大丈夫?」


「…いや、大丈夫。何でもない、なんでもないんだ」



そんなわけない、と晴矢は小さく呟いた。項を垂れた冷や汗を舐めたい衝動。いや、ここは満員電車じゃない。流石に今はまずいな。私だとばれてしまうかもしれない。


晴矢がジュースを取ってくると言って部屋を飛びだしてから、私はずっと笑いを堪えられなかった。しなやかな体。冷や汗の浮く項。上気した頬。潤んだ目。抵抗しない心。あの光景を思い出しただけで背筋に甘い痺れが走る。



いい遊びを見つけてしまった。
そして晴矢が戻ってきたらまた慰めてあげるんだ。





「私が、守るからね。」

























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流星スケルツォのななおおねえちゃんにネタをいただきました。
ネタもらいすぎ。自分で考えなさい。


素晴らしいネタを形に出来なくて申し訳…ない…うぐおう……














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