text | ナノ





幼稚園児というものは大人には計り知れない世界をもっている。誰とでも仲良く出来る世界でもなければ、衝突も数多い。傍から見ると戯れているようにしか見えなくても、本人達は猛烈な争いを繰り広げていたりするわけだ。…私の場合は、争いとは違った。





夏の天気の良い日の事だ。私は一人で砂場にいた。元々大人数でいるのが苦手で、ほとんど同性ともつるまなかった。誰かといてもたまに女子に混じってままごとをする程度で、昔から人付き合いが得意ではなかったのだ。幼いながらも自分もそれは自覚していたようで、自分から遊びに加わることもなくひっそりと遊んでいた。

じりじりと太陽が地面を焦がすのを耳で感じ取りながら、私は目の前の砂山を城にする作業に取り掛かった。どんな形にしよう、この城にはどのくらいの兵士がいるんだろう。王子はこんな装備をしていて…。プラスチックの色鮮やかなスコップとバケツを手に、様々な想像を膨らませる。目の前の事に気をとらわれ過ぎて私は気付かなかった。後ろから、誰かが歩いてきていたことを。




「よう、ふうすけ」



私が後ろを見ると、砂場の向こうに同じ組の晴矢が立っていた。晴矢は私とは違い活発でガキ大将素質があり、日々スカートめくりに勤しむようなタイプだったので女子にはこっぴどく嫌われていた。反対に、男子にはとても好かれていた。私は心のどこかで晴矢とは仲良く出来ないと知っていたようで、うんとだけ返した。

日光を浴びて眩しい晴矢は、私が手にしているバケツよりも一回り大きなそれを持っていた。晴矢は目を細めて私を見る。金色に光り輝く目は色んな人の憧れだった。男子はみんな金色だとか銀色だとかが好きだ。





「おまえに、これをやるよ」



晴矢が私にちょっかいをかけてきたのはこれが初めてだった。私が何だろうと振り返った瞬間、晴矢はバケツの中に入っていたものを私の頭に叩きつけるようにかけた。大量の何かが私の頭を伝い、足に、腹に滑り落ちる。ころころとしたそれを私は最初何なのか判断することが出来なかった。徐々に焦点が合ってきた瞬間、私はもう声を出すことも出来なくてただその場に固まっていた。
ころころとしたそれは、紛れもない丸まったダンゴムシ。虫が嫌いだとか、そういう事ではなくて大量の何かがただ単純に恐ろしかった。勿論虫採りなんてするような性格じゃなかったから虫が苦手であったのも間違いじゃないのだが。
固まったままの私を見て晴矢は大笑いをしていた。笑われて、色々なところにダンゴムシがいて、首根っこの部分で這いずり回っていて、私はもうパニックだった。叫べもしない。晴矢は一通り笑ってから、こちらを睨み付けた。同い年の子を怯ませるには十分過ぎる威圧感に私は震え上がりながら、晴矢の次の行動を待った。




「お前の態度、やだ。むかつく。女と遊んでたり一人で遊んでたり、嫌い。気持ち悪い。」




晴矢の完璧な拒絶の言葉に、私の心は打ち砕かれていった。ガキ大将に嫌われたこと、今の悲惨な状況、自分の存在否定がどす黒く私の脳に浸透してゆく。晴矢はそのあと踵を返し砂場を後にした。私は何も出来ないまま、ただその場に座っていた。
















私の精神状態が一向に回復の兆しを見せない。私は何度も晴矢の癪に障ったようで苛められる事が多くなった。勿論中学や高校で受けるような苛めでは無いが、小学生にも達していない年齢の子にとってはトラウマになってもおかしくないレベルではあった。また苦しかったのは晴矢本人の苛めではなく、周りの取り巻き達の苛めだったのを覚えている。陰湿なものが多く、リュックに蛇の脱皮が入っていたときは声にならない絶叫をした。
今になって分かることだが、取り巻き達の苛めは晴矢が指示していたことでは無い様だった。そんなこと知っても、今更ではあったが。どっちにしろ私はもう晴矢の事を無視出来るような状況にいなかったのだから。






そんな毎日だったから、私は常に塞ぎ込んでいたし誰とも接触したがらなかった。愚かな保育士はそれを私の性格だと決めつけ何もしない。小学生の時に一旦遠い町に越したので、晴矢達とは疎遠になっていた。それからも内気な性格は直らず、小学校、中学校と目立つ事なく普通の毎日を送った。進学校でも商業高校でもない普通の偏差値の高校に入学した時に、私の人生はまた逆戻りを始めたのだ。





同じクラスに、あいつがいる。












「南雲晴矢です。えっと…趣味はベースで、得意なことはサッカーです。宜しくお願いします」



一人一人の自己紹介のとき、まさかとは思った。赤い髪、まばゆい金色の瞳。白い肌。私は机に少しだけついている手を見て、大量のダンゴムシを思い出した。晴矢は私に気付かない。ただぼーっと何処かを見つめたまま、気だるそうにしている。瞬間私は彼を殴りたい気持ちでいっぱいになった。しかしこんなところで騒ぎを起こしては一週間で退学なんて夢ではない。ぐっと堪えて、ただ私は晴矢を睨んでいた。





一週間、二週間と私は晴矢と初対面のふりをして付き合ってみたが、晴矢はまるで別人だった。誰かとつるむわけでもなく、不良なわけでもなく、ただ一日を淡々と過ごす。誰に対しても短い返事。笑わない。あの時のあくどい笑い顔はどこに消えたのか。沸々と煮えたぎる私のどす黒い感情が心の表面を覆い始める。私の、あの頃のせいで私は。私は!






「南雲、放課後少し付き合ってくれないか」




初めて私から話し掛けた。晴矢はきょとんとこちらを見て、別にいいけどと返した。理由を聞くのも面倒だったのだろう。そしてそのままくたりと頭を机に乗せた。もう話し掛けるなということらしい。




今に見ていろ。自分の頬がつりあがるのが分かった。計画性のない復讐。どれだけ愚行なことかはわかっているが、これぐらいしないと私の気が済まなかった。放課後が待ち遠しい。
















放課後、音楽室の隣の楽器や楽譜を置く準備室に晴矢を呼び出し、間髪入れずに晴矢を殴った。晴矢は呆然と私を見る。多分今私は幼稚園児のときの晴矢の位置にいる。ダンゴムシまみれになった私を見下ろしている。




「な、に……」


「まだ思い出せないの?私の事を。本当に…君は私を怒らせるのが好きなようだ。」




晴矢はしばらく私の顔をじっと見つめていたが、そのうちどんどん顔が青ざめていった。その度自分も笑みの度合いが増していくのがわかった。
晴矢がぽつりと、私を呼ぶ。




「…………ふう、すけ?」


「なあに晴矢」




いよいよ晴矢は泣きだしそうな顔で私を見た。私はそれに対し少しだけ笑ってから晴矢の横の壁を蹴りつけた。




「久し振りだね晴矢。覚えているかい?君の拾ってきたダンゴムシ、あれ全部私にプレゼントしてくれたよね?懐かしいね」


「……何でそんなこと、覚えて」


「本当に嫌な記憶はそうそう簡単に忘れられないよ。…晴矢。君は私にすごいトラウマをくれたから、私もお礼にトラウマをあげよう。」





床にへたりこんだ晴矢に乗り上がり、ボタンの留めてないブレザーの隙間のワイシャツを引きちぎった。弾け飛ぶボタンが床に転がる。晴矢は状況を把握出来ないまま私の下で暴れている。嫌だ、やめろ、放せ!ワイシャツの下の露になった白い肌の上の胸の突起に、思い切り噛み付いた。晴矢の声にならない悲鳴が響いた。私がズボンのベルトを外し中に手をのばした時に、晴矢がしゃくり上げる声が聞こえた。



「ごめ、な、…謝る、から!あの時のこと…ごめん…だから…!」


「やめないけどね」



泣きながらやめて、やめろと繰り返す晴矢を見て私は気持ちが昂ぶっていた。あんなに私を苛めていたあいつが、私に組み敷かれて泣いている。許してと許しを請うている。こんなに興奮することがあるだろうか。



強制的な愛撫に無理矢理快感を与えられる様を見ているのは正直愉しい。涙でぐちゃぐちゃになった顔でごめんなさいと繰り返す晴矢が本当に滑稽だった。大量のローションを指につけ、双丘を割り開いた先に押し込んだ。晴矢は脱げたブレザーを固く掴んだまま動かなかった。多分こんな体験初めてでショックが大きいんだろう。
ぐちゃぐちゃとナカを慣らしてみるが、彼は全く反応を示さない。苛々したので素振りを見せず自身をそこにぶちこんだ。ブレザーに顔をつけていたせいで私の行動に素早く反応が出来なかった晴矢は、苦しそうに叫んだ。




「っあ、ああああぁぁっ!!!」


痛い、やめて、もう嫌だ。拒絶の羅列が耳を突く。ローションと血が混ざり合ってピストン運動をするたび後孔から溢れてくる。その様子に酷く快感を覚える私もまた、晴矢のつくりだした歪みに過ぎない。




「はぁっ、あ、ごめんなさいっごめんな、ぁ!さいぃ、ごめんなさいっ…!痛、ぁっ痛い、抜いって、あっ、」


時折甘い吐息がまざる事も有るが、大体が謝罪の言葉だった。涙で目を真っ赤にしてブレザーに縋りつく姿を見て、こいつはただの人間なのだと私は理解した。私は、こいつの何を恐れていたのだろう?



「ねえ、痛いの?」


「うやぁぁっ、むり、も、だめ、ごめんっ…ふうすけぇっ謝るから、ごめんなさい…っうぁ、ぁんっ…」


「痛くないの?残念、もっと苦しい思いをさせたかったのに。」



やはりローションを使ったのが間違いだったか。いやしかしローションを使わないと自身も痛めるのでどうしようもない。
ナカを擦り上げると否定の言葉とは裏腹に体は嬉しそうに跳ね上がった。晴矢が最早嬉しくて泣いてるようにも見える。律動を激しくすると肉壁が自身を絞るように締め付けた。揺さ振られるままの晴矢が、人形のようでとてもいとおしい。




「もっ、だめ、いきたい、いきたい、ふうすけっ…ごめんなさい、やだ、き、もちい、っ…いきたい…っ!」



ああそうか、初めてでは後ろだけではいけないか。ただの単語しか吐けなくなった晴矢を、私は軽蔑の眼差しで見た。そして大きく腰を打ち付けて晴矢のナカに注ぎ込む。晴矢は痙攣しながら小さく吐息した。まだ彼は射精していないようだったが、別に彼の事はどうでもよかった。自身を抜くと、ローションやら血やら精液やらぐちゃぐちゃに混ざったものがひくひくと開閉している穴から漏れていた。

支えを失ってばたり、と横たわる晴矢は頬を赤くして細かく息を吐いている。喪失感と、まだ欲を吐き出していないための冷めていない興奮のせいだろう。白い肢体が妙に艶めかしい。日も沈みかけて、夕日が随分と優しい光になった。私は立ち上がりティッシュで片付けをすると、再び晴矢を見た。さっきよりは落ち着いた様子で、しわしわになったブレザーに腕を通している。未だ火照った顔が、苦しそうに歪んでいた。






「君のせいだよ。」


「あんな小さいときのこと…普通、忘れるだろ。俺だって幼稚だったからあんなことしたのに。」


「うーん…きっとね。小さい時の私は、君のことが好きだったんだ。憧れていた。なのにね、あんなことされたから、」




幼いながらの絶望、孤独。そう、日中私を照らした太陽みたいな存在だった。それが、私のことを嫌いと言った。金色の目で私を見据えて。あの時のことは、絶対に忘れないだろう。




「私も、君が大嫌いだよ晴矢。」




あの時のように、私は踵を返して準備室を出た。戸の硝子越しに泣きじゃくる晴矢を見た。こんな形でしか終わらせられなかった、訳が無い。何故か目頭が痛くなり、涙が溢れてきた。嫌だ、何でだ。よかったじゃないか。復讐が出来て、満足したじゃないか。何でこんなにも、晴矢にあんなことをしたのを後悔しているんだろう。





「―――今も、君に憧れて、君を嫌いになれない。」




私はまた過去と同じ過ちを繰り返してしまったのだ。



























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カムパネルラのりうちゃんにネタいただきました!ありがとう!


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