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◆
走ってきたディノールとルアの目に。
背を向けて歩き去る一団が映った。
それはおそらく、依り代を探していた者たち。
「まさか……」
先ほどの力。あの集団。
神の依り代はその力に目覚め、奴らはそれを手にしたとでもいうのだろうか。
しかし、それにしては静かだ。
興奮の欠片も伝わってこない。
希望や期待に近い、もしかしたら……という思いがルアの中に沸き起こる。
「ねぇルア。あれ、どこの神殿かな」
「……え?」
「タナンは捕まっちゃったのかな?もしかしたら逃げてるかもしれないよね?」
集団を見つめながら、独り言のようにディノールが呟く。
「おじさんもいないし、まさか二人とも連れて行かれるなんてこと、ないと思うんだよね。だっておじさんには力はないんだもん」
逃げ出した可能性はある。
そう思ったが、ルアは黙っていた。
希望を語るディノールに言う台詞ではない。
「きっと、逃げたよね。だったら僕は、探しに行かなきゃ。約束したんだもん」
「お気持ちはわかりますが、今すぐに、というわけにはいきませんよ。お父上に、許可をいただいてからでないと」
「そんなことしてたら捕まっちゃうよ!」
今すぐにでも!というディノールに、ルアは苦笑する。
他人を思いやる気持ちは大事だが、他人を「助けよう」と思うのなら、それだけの力を自分が持っていなくては駄目だ。
今のディノールでは、行く先々で珍事件を巻き起こし、本人たちに辿り着くどころか早々に家へ戻されるだろう。
「あの二人を見くびるおつもりですか?それとも、ご自分が無敵になった気でいらっしゃる?」
少々意地悪く言ってやると、ディノールは唇を変な形に歪めた。
「いじわる〜」
「お褒めいただき光栄です」
「あ〜、なんかそのヤな言い方、アルディアにそっくり〜」
何気ない一言だったのだろう。
しかし、ルアの心には重石のように感じられた。
結局あのまま、別れることになってしまうのだろうか。
再び会うことは……?
護衛者の心中に気づくこともなく、ディノールは早く帰って旅の許可をもらおうと、握った拳を空に突き出した。
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