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◆
その場所に、二人の姿はなかった。
ディノールが毅然と顔を上げて、街道の方を睨みつける。
ルアもその視線を追いかけた。
強い風が吹いた、と思った次の瞬間――
突如、襲ってきた圧迫感は、肌を逆撫でして得体の知れない戦慄を二人に与えた。
「これは……!」
「なにこれ!ゾワゾワ〜ってする!ゾワゾワ〜!」
目を見開いて硬直するルア。
そして小刻みに動きながら叫ぶディノール。
得体の知れないものが、この先にいる。
顔を見合わせて、どちらからともなく一つ頷く。
先へ進もうと意を決し、一歩を踏み出した。
二歩、三歩……。
重く感じられる足を動かして、わずかに進んだ矢先。
その気配は唐突に掻き消えた。
囲まれたことに気づいた。
けれど、もう動けない。
腕に抱えた少年の重みは、彼の覚悟を固めた。
「俺も一緒だ。文句はないだろう?」
軽く目を見張った壮年の男性を、冷めた目で見た。
詳しい事情はわからない。
この男が何を求めているのかも知らない。
だが、求めていた存在に個人として声をかけられた自分を、この一団は放っておくはずがない。
どのみち追われるなら。
今ここで、少年と共に内部に踏み込む方がいい。
(いい加減に生きていこうと決めたのに、一体何に関わっちまったんだ俺は……)
心の中で呟いて。
少年を抱く腕に力を込めた。
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