27
■
風は、渦のように周囲を回り。
起きた時と同じように、唐突に止んだ。
サジルは、顔を防御していた腕をゆっくり下ろす。
相変わらずそこに立っている少年。
けれど、何かが違う。
隠れて様子を見ていたらしい、幾人もの男たちが集まりだす。
隙あらば少年を捕らえようとしているのか。
好奇心に負けたのか。
そして、それは証明された――
『我を求めし者たちよ』
厳かなその響きは。
少年から発せられたように聞こえた。
道の向こうにいた男が、壁にぶつかったように足を止めて。
その場に跪いた。
周りを囲む集団も、次々に膝を折る。
信じられない……と喘いで、涙を流す者さえいた。
サジルは、立ち尽くす。
何が起こったのかは周囲の反応でわかったものの、それを許容したくなかった。
否、できなかった。
歓喜に打ち震える連中を目前に、「彼」は言葉を紡ぐ。
『我に何を求めるか』
この問いかけに、場がざわめいた。
求めることは、ありすぎるほどにある。
しかし誰一人として、答えることはできなかった。
その「気」に圧倒され、姿を見ているだけで精一杯だったのだ。
少年の姿をした「彼」は、冷めた視線で周りを見渡す。
跪く者たちの中で、一人立ち尽くす若者を認め、薄く笑った。
『我の求めるものを与えし者よ』
「――え?俺?」
『そなたの求めしものは何か?』
眼差しに貫かれて。
サジルの全身に緊張が走った。
呼吸が荒くなり、喉が渇く。思考は全く機能せず、声など出るはずもない。
かろうじて、首を横に振ることだけはできた。
『欲のないことだ』
くっ、と笑い、忽然と気配が消えた。
慌てた様子で立ち上がる男たちに、サジルは「彼」が少年から離れたことを実感する。
全身の力が抜けたように上体の揺れた少年の元へ、迷わず駆け寄った。
抱きとめた身体は、幼い少年以外の何者でもなかった。
- 36 -
[*前] | [次#]
ページ:
*感想掲示板*