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 風は、渦のように周囲を回り。
 起きた時と同じように、唐突に止んだ。
 サジルは、顔を防御していた腕をゆっくり下ろす。
 相変わらずそこに立っている少年。
 けれど、何かが違う。
 隠れて様子を見ていたらしい、幾人もの男たちが集まりだす。
 隙あらば少年を捕らえようとしているのか。
 好奇心に負けたのか。

 そして、それは証明された――

『我を求めし者たちよ』
 厳かなその響きは。
 少年から発せられたように聞こえた。

 道の向こうにいた男が、壁にぶつかったように足を止めて。
 その場に跪いた。

 周りを囲む集団も、次々に膝を折る。
 信じられない……と喘いで、涙を流す者さえいた。

 サジルは、立ち尽くす。
 何が起こったのかは周囲の反応でわかったものの、それを許容したくなかった。
 否、できなかった。
 歓喜に打ち震える連中を目前に、「彼」は言葉を紡ぐ。

『我に何を求めるか』

 この問いかけに、場がざわめいた。
 求めることは、ありすぎるほどにある。
 しかし誰一人として、答えることはできなかった。
 その「気」に圧倒され、姿を見ているだけで精一杯だったのだ。

 少年の姿をした「彼」は、冷めた視線で周りを見渡す。
 跪く者たちの中で、一人立ち尽くす若者を認め、薄く笑った。

『我の求めるものを与えし者よ』

「――え?俺?」

『そなたの求めしものは何か?』

 眼差しに貫かれて。
 サジルの全身に緊張が走った。
 呼吸が荒くなり、喉が渇く。思考は全く機能せず、声など出るはずもない。
 かろうじて、首を横に振ることだけはできた。

『欲のないことだ』

 くっ、と笑い、忽然と気配が消えた。
 慌てた様子で立ち上がる男たちに、サジルは「彼」が少年から離れたことを実感する。
 全身の力が抜けたように上体の揺れた少年の元へ、迷わず駆け寄った。
 抱きとめた身体は、幼い少年以外の何者でもなかった。






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