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ルアが目を開くと、ディノールが心配そうな顔でのぞき込んでいた。
場所は変わっていない。
身体が仰向けになっているのが、唯一違うところか。
「ルア……!良かった、起きた〜」
言いながら、ディノールは大きく息を吐いて地面に額をつけた。
その様子を見て、ルアには自分が目覚めるまでの経緯がなんとなくわかった。
「……すみません。力を使わせてしまいましたね」
らしくない物言いに、ディノールは目を丸くする。
元々ルアには正直な面があったが、ここまでしおらしくなったのは初めてだった。
「ううん。ルアが起きてくれればいいんだ。それにね、使ったのは力だけじゃなくて」
「……は?」
「さっきタナンと一緒にお店見てたときに、内緒でもらったのがあって〜。元気になるんだよって言われたやつなんだけどね」
「……まさかとは思うが……」
「物がよくわからなかったんだけど……ほら、僕まだ薬学途中だし。でもこの際だからと思って、ちょっとルアに食べてもらったんだ〜」
えへへへへ〜と幸せそうに笑われて。
ルアの中で何かが切れた。
「人を実験台に使うんじゃありません!」
さっきまで倒れていたとは思えないほどの怒号。
「えぇ〜?なんで怒るのさ〜?」
頭を抱えて怯えるディノールに、こいつが護衛対象でなかったら殴り飛ばしている!と拳を握り締めた。
ふと。
違和感を感じて、ルアは周囲を見回す。
「どうしたの?」
「……依り代はどうしました?」
「依り代じゃなくて、タナンだよ。もう少し行ったところで、隠れて待ってもらってる。おじさんも一緒だから、大丈夫だよ」
笑顔で答えるディノールに、ルアの真剣な眼差しが向けられる。
ディノールの中にわずかにあった不安が、急速に膨張した。
「大丈夫だよ。だって、ちゃんと逃げるって言った」
「嫌な気配がします。――行きましょう」
まだよろける足元。
身体は思うように動かないのに、ルアの気が急く。
ディノールを不安にさせたいわけでも、悲しませたいわけでもない。
ただ、おかしいのだ。
こんな気配は、感じたことがない。
それが神の依り代に関わるものだと、ルアの直感は言っていた。
ならば、早く行かなければ。
「タナン……逃げてるよね、大丈夫だよね?」
隣で言い聞かせるように呟くディノールの肩を叩いて、ルアは進む。
そのわずかな行動が、どこかアルディアに似ていたことに、ルアはしばらくしてから気がついた。
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