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「なんだろう、今の」
 眉間にしわを寄せてタナンが呟く。
「誰かが、魔法を使ったんだ」
 ディノールの声も、心なしか硬い。
「あいつらか?」
 サジルの問いかけに、ディノールは、首を横に振った。
 わからない、という意味だ。

「ちょっと様子を見てきてやろうか」
「ダメだよ!戻ったら、ルアの気持ちがどこかに行っちゃう!」
 文としてはおかしかったが、言いたいことはわかった。
 あの少年は自分を壁にして、三人を行かせたのだ。
 これで戻ってしまったら、その気持ちは無駄になってしまう。

「でも、やっぱり心配だよ、ディノール」
「タナン……。うん、それはそうなんだけど……」
「ディノールが行ってきなよ。僕は、サジルさんとこの辺で隠れているから」

「え?」

「ディノールなら、戻ってもおかしくないんだよ。見つかっても、護衛者とはぐれちゃって探してたって言えば、全然あやしくない」
「でも……」
「大丈夫だよ。誰か近づいてきて危なくなったら、逃げる。ね、サジルさん」
「あ、ああ」
 急に饒舌になったタナンに、サジルは押された。

 そんな性格ではないと知っているのに、思わず頷いてしまった。

 ディノールは、うんうん唸って迷っていたようだが、やはり共にいた二人が心配なのだろう。
 しかめ面で、タナンの手を握って言った。
「絶対だよ?絶対逃げてよ。僕、ちゃんと探すから」
「うん。そうなったら、ディノールが探してくれるのを待ってるよ。……ううん、ぼくも、探すから」
「よぉし!約束だからね、タナン!おじさん、ちゃんとタナンと一緒にいてよね!」
「だから、おじさんじゃないっての。いいから行ってこい。こっちは心配するな」
「心配しないってのは無理なんだけどさ〜。でも、うん、行ってくる!」

 曇った顔も一瞬。
 笑顔を残して、ディノールは二人と離れた。




 ――それは、ディノールの後悔――




 残った二人は顔を見合わせて。
 何も言わずに笑ったタナンに。
 サジルは、変えられない思いを悟った。


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