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「いや、子供だけで歩くのは危険だと思って、ついて歩いていただけですよ。買い食いもさせてないし、衣類小物も与えてません」
 言ってから、サジルはしまった!と後悔した。
 ディノールは、お子様だが貴族の子息だ。買い食いだの物を与えるだの、市井の子供と同じような言い方はマズイ。
 極めつけにマズイ。

 ところが。

 内心だらだらと汗をかいたサジルの失言を、少年は多少目を丸くしたが気にしている様子はなかった。
 むしろその言い草を気に入ったらしく、サジルを見る目がわずかに好意的になっている。
 青年にいたっては、「それはなにより〜」などと言いながら、ゲラゲラ笑っている。

 この坊ちゃんにして、この護衛者あり。
 やはり普通の神経では、このお子様の相手は務まらないのかもしれない。

「でね、アルディア。僕お願いがあるんだけど」
 かわいらしく上目遣いで金髪の青年を見上げるディノール。
「なんですか?まぁ、おおよその見当はつきますけどね」
「あのね、タナンともっと遊びたい」
 絶句した。
 サジルだけでなく、タナンも言葉を失ったようだった。

 ルアという少年は盛大なため息をつく。
 アルディアと呼ばれた青年だけが、「やれやれ」と言いながら苦笑を浮かべている。

「今日だけじゃ足りない。アルディアなら、なんとかできるでしょう?」
「なんとか、とは?」
 不思議そうに問い返されて、ディノールは口をつぐんだ。
 タナンについての詳しい話を、彼らは知らない。
 聞き分けのない子供が、友達ともっと遊びたいと言っているようにしか取れなかっただろう。

 気まずい沈黙。

 それを破ったのは、目に見えない気配だった。

「……!」
 ディノールとアルディア、そしてルアが一斉に同じ方向へ視線を向けた。
「どうした?」
 瞬時に変わった三人の気配に、サジルはタナンの肩を抱いて周囲を見渡す。

「なんだ、これは?」
「ずいぶんと大人数で来たものだ」
「こんなに主張しながら来るなんて、お祭りが台無しだよ!」

 ルアとアルディアは、緊迫した台詞と空気を。
 ディノールは、怒っているのだが脱力する台詞を。
 来るべき時が来たのだと、三人の言葉からタナンは悟った。

 自分を追っている者たち。
 フェリナス神殿の使いが、来た。





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