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 鼻歌を歌いながら、ディノールがご機嫌で前を歩く。
 その後ろを、タナンとサジルが。

 後ろの二人は、対照的な表情で歩いていた。
 タナンはディノールに引っ張りまわされて迷惑がるどころか本気で楽しんでいるようだった。
 それはもちろん良いことなのだろうが、サジルはお子様の溢れんばかりの行動力についていけない。
 本音を言えば、もうウンザリだ、というところだ。
 タナンの事情を知らずにいたら、早々に匙を投げている。

 サジルの中では、自分が大人だから守ってやらなくては、という思いがいつの間にか強くなっていた。

「ご飯〜ご飯〜。な〜にを食べたら僕はしあ〜わせ」
 知るかそんなもの!と突っ込みたいのをかろうじて抑えて、サジルはタナンに話しかける。
「お前さんは、何か食べたいもの、ないのか?」
「え?ぼくは……あの、何があるのかよくわからないから……」
 それもそうかと頷いて、ディノールに声をかける。
「おい、さっきの天幕の中なら、それなりに食べるものがあると思うぞ」
「う〜ん、そうなんだけど、そうするとね、僕が見つかっちゃうかもしれないんだな。見つかっちゃったら、またルアに怒られちゃう」
「ルア?……お前それ、ギルドの連中に言ってた名前じゃないか?」
「よく覚えてるね!そうそう、あの時思いついた名前がそれだけで〜。あぁ!そうだよ!きっとそれも怒られる!だから、あそこには戻らないんだ〜」
 くるんと振り返ってにっこり笑ったディノールだったが、急にその笑みが固まった。

「どうした?」
 ディノールの視線は、サジルをわずかに逸れて後方を見ている。
 まさかタナンの追っ手かと、少年を背後にかばって振り向くと。

 そこにいたのは、くすんだ金髪の青年と、赤い髪の少年。
 青年の方は苦笑いを浮かべているが、まだ十代前半と思われる少年の方は明らかに怒っている。

 先に口を開いたのは少年の方だった。
「ディノール様。ご無事で何よりですが、現地で新しい護衛をつけられたので?それとも、その目はとうとうおかしくなって、そちらのお二方が我々にでも見えましたか」
 言われてみれば、現われた青年と少年は、サジルとタナンの年齢に近いように見える。
 こいつ、上手いことを言うな、とサジルは妙な感心をする。
「ルアのいじわる〜!このおじさんは僕の保護者で、彼は僕の友達!いくらなんでも、タナンとルアを見間違えるなんてないよ!全然違うもん!」
 確かにそれはそうなのだが……。

「保護者?」

 ルアと呼ばれた少年が気になったのは、どうやらそちらの方であるらしかった。
 サジルを見る少年の眼が光ったように見えたのは、勘違いではあるまい。



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