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 店の中を眺めて回るタナンとディノールを、サジルは複雑な思いで見ていた。
 何の因果か知らないが、こうして行動を共にするようになったからには、大人としてそれなりのことをしてやらなくては、と思う。
 どうやら貴族の子息らしいディノールは、頭が痛くなるほど能天気な性格だが、何も考えていないわけではないらしい。
 タナンの境遇についても、それなりの理解をしたうえで笑って見せた。
 サジルには無理な話だ。

 自分の保身も考えるし、タナンに憐れみも感じる。
 あんな風に、無邪気に笑って引っ張りまわしてやれるほどの度量はない。

 ……まぁあのお貴族さまの場合、単に楽しくて忘れているだけかもしれないが。

「おじさ〜ん、ねぇ、これ買っていい?」
「バカヤロウ!俺がお前に買ってやる義理はねえ!」
「ケチ〜」
 べぇっと舌を出すディノールを、サジルは本気で殴ろうかと思った。

 ふと、ディノールの言葉が頭をかすめる。


 タナンが魔道具店の商品に気を取られている間に、ディノールはサジルにいくつか話をした。
「タナンは、魔法が使えるわけじゃない。危害を加えようとしたものに対して、防御できるだけ。そういう魔法がかけられていると思って」
「それは……」
「かけられてるのか、でなきゃ何か道具があるのかもしれないけど。……僕はそのへん詳しくないから」
「なんでわかった?」
「さっき、肩を叩いたでしょ、僕」
「ああ」
「ちょっと怒られた」
 肩をすくめて舌を出した少年に、サジルは眉を寄せた。
「少しね、手のひらに衝撃が」
「……大丈夫なのか?」
 自分の腕があんなに赤くなったのだ。
 やわな少年の手のひらに、どれだけの衝撃が加わったのか。
「平気。予想してたから、膜張ってたし」
「まく?」
「う〜ん……魔法でね、一枚多く皮を作ったの」
「……気持ち悪っ!」
「聞いたまんまに取らないでよ。わかりやすく言ってあげただけなんだから」

 ぷうっと頬を膨らませた少年を、サジルは小突く。

「なにすんのさぁ!」
「……こういうことが、あいつには出来ないってことだな?」
 真面目な声に、ディノールの表情も硬くなる。
「うん。それから……多分、時間はあまりないと思う」
「さっきのでか?」
「それもあるけど、僕の名前、ギルドに言っちゃったでしょ?誰か探しにくると思うんだよね。そしたら、一緒にいるタナンも……」
「なんで」
「ギルドも、タナンを探すと思う。探しているのは神職者だけど、魔法ギルドにも協力を求めると思うから」
「そんなに、おおごとなのか?」
 サジルの問いかけに、初めてディノールが淋しそうな笑みを浮かべた。

「タナンは、神の依り代なんだ、きっと」

 神の依り代というものが何なのか、サジルは噂でしか知らない。
 神がこの世界に降りてくる際に必要な器、という話だったと思う。
 そんなものを実際に見たことはなかったし、神が降りてきたなどという話も神話以外で聞いたことはない。
 どちらかと言えば田舎であるこの地方に、そんな大層な人物がいること事態おかしい話なのだが……。
 タナン自身の口から、その言葉が出たわけではない。
 依り代という考えはディノールの推測であり、事実であるという確証はない。
 それなのに。
 それ以外には考えられなくなっている。


「よ〜し、次はご飯を食べに行こう!」
 能天気なディノールの声が、珍しく真剣に働いていたサジルの思考を、物の見事に粉砕した。






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