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 『名産天幕』を出て、少し歩いた広場。
 ディノールとサジル、そしてタナンは草の上に円を描くように腰をおろしていた。

 そこにあるのは、沈黙。

 タナンの話を聞いて、さすがのディノールも声が出ないようだ。
 サジルにいたっては、余計なことに首を突っ込んだかもしれないという後悔が、表情から読み取れる。

「だから、ぼくにあんまり関わると、とても危険なんだ。また、あの時みたいに何か起こるかもしれないし、追いかけて来る奴らが何かするかもしれないし……」
 うつむいて、これできっと二人は離れていく、また一人に戻るのだ、と悲壮感を漂わせているタナンに。
「なぁんだ。それくらい、なんてことないよ」
 ディノールが、明るく言い放って肩を叩いた。

「え?」
「おい、お坊ちゃん。今の話、聞いてたか?」
「聞いてたよ?でもさ、さっきタナンが力を使っちゃったのは、どう考えてもおじさんが悪いからでしょ」
「サ・ジ・ル・だ」
「でもって、あれがあったにも関わらず、追いかけてきてるらしい人たちは姿を見せない。ってことは、まだ大丈夫ってことでしょ?」
「でも、確実に近づいてきてるんだ。ぼくが、逃げるからいけないんだけど……」

 自分の立場は、わかっている。
 わかっていても、タナンは世界を見たかった。
 あのまま、何もせずにあそこにいたら。
 タナンは一生を、あの空虚な部屋で、空虚な心のまま過ごさなくてはならなかったのだ。
 世界には、「楽しい」ことがある。
 「美しい」こともある。
 与えられる「情報」だけでなく、肌で感じてそれがわかっていなければ、耐えられないと思った。

 そして、見て出会って感じた、この気持ち。
 ここで二人と別れてあの場所に戻っても、この気持ちがあれば大丈夫な気がした。

「いいんだよ!タナンはもっと楽しまなくちゃダメなんだから。こんなところで座ってる場合じゃないよ、もっと見たいところ見ないと」
 ほら、行こうよ、と腕を引かれて。
 胸に走った痛みと、身体を駆けめぐった痺れ。

(なんだろう?)

 深く考える間もなく、ディノールの笑顔がタナンの足を動かす。
 もう少しだけでいいから、この幸せが続けばいいと思った。




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