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 初めて足を踏み入れたギルドの奥は、なんの変哲もないただの民家に見えた。
 魔法書や魔道具の数は半端ではないが、それ以外には特別な構造も気配も感じられない。

 アルディアは、勝手知ったる我が家のように、迷いもなく進んでいく。
 廊下を進んで、突き当りの部屋へ。
 前に立っただけで、扉が開いた。
 驚くルアに、ちょっと笑って見せてから、アルディアは中へ入る。
 ルアも後に続いた。

「アルディア、久しいな」
 奥の方から、若い声が響いてくる。
 見れば、机に肘を置いて笑っている人物。
 その服装から、彼がこのギルドの頭であることがわかった。
 正確には、この地方のギルドの頭だが、それでも普通はお目にかかれない重要人物である。
 さすがのルアも、人並みに緊張を覚えた。

「ご無沙汰しております、ギルド様」
 魔法ギルドの上層部にいる者たちは、その名が悪用されることを防ぐため、総じて『ギルド』と呼ばれることが多い。
 もちろん、数人の『ギルド』が集まると混乱が生じるため、上層部の者たちは各人の名を知っている。
 これは魔法ギルドでの特殊な扱いなので、他のギルドでは行なわれていない。
 魔法に関わるということは、非常な危険を伴うのである。

「その者は?そなたの同士か」
「ええ。今お仕えしている方の所で出会いました。それよりギルド様、お願いしたいことが」
「……あぁ、わかったぞ。そなたの仕えしはラクサーヌ家であろう。かの次男坊の護衛者として、この地へ来た。違うかな?」
「その通りです」
「すると、あれだな。先刻の騒動、穏便にすませてもらえぬかという打診だな?」
 黙ってしまったアルディアに、『ギルド』は、くつくつと笑う。

「そこまでお分かりなら話が早い。……すませていただけるのでしょうか?」
「こちらにも、丁度誰かに頼みたい、少々やっかいなものがあってな。さて、誰に話して聞かせたものか」
「やっかい事は、あまりお聞きしたくありませんね。私の手に負えるものでもなさそうだ」
「何を言う。『神性』と呼ばれるギルドきっての使い手が。そなたに憧れ、魔法使いの道へ踏み出した若者が、どれほど多くいたことか」
「……昔の話です」

 驚愕で、ルアは言葉が出なかった。
 ギルドの『神性』と言えば、伝説の人物だ。
 その正体を誰も知らない。
 生きているのか、死んでいるのかさえも、明らかにされていない。
 それが、目の前に立っている――いや、共に行動し散々悪態をついた、この男だというのか?

「アルディア……」
 微かに呼んだ名前が、急に遠ざかった気がする。
 一番近かったはずの名前が。

 聞こえたのか、アルディアがルアを振り返る。
「おいおい、なんて顔してんだよ。やめてくれよ、お前にまで距離おかれるなんて、嫌だからな俺は」
 いつもの人をくった表情で笑われて、ルアは顔を赤くする。
 思考を完全に読まれたようで、気恥ずかしかった。
 お前にまで、という言い方が、やけに心に痛かった。

「ラクサーヌ殿の違反、当ギルドは記録に残さずにおこう。そのかわり、そなたたちに探してもらいたいものがある。悪い話ではないと思うがな」
「いや、それとこれとは……それにこいつは――」
 アルディアが「関係ない」と言おうとしているのに気づいて、ルアは一歩踏み出す。
 自己主張をしようという動きに、『ギルド』が面白そうな笑みを浮かべてルアを見た。





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