「痛ってぇ!」

 弾けた何かが、男の腕を傷つけた。
 血も流れていないし、折れたわけでもない。
 少し赤くなっただけだ。

 知らない人が見れば、彼が男の腕を強く叩いたくらいにしか思わないだろう。
 それでも、わかる人にはわかってしまう。

 まずい――と思ったが、どうしていいのかわからない。
 自分の力で他人を傷つけておいて、逃げてしまっていいものか。
 しかし、逃げなければ見つかってしまう。
 二つの思いが、頭の中を駆けめぐった。

「小僧……いい度胸じゃないか……」
 睨みつけられて、後ずさりする。
 険悪な雰囲気に、周囲の何人かが足を止めた。
 聞こえてくる、複数の足音。
 この足音は、おそらくギルドの監視員だ。
 こういった多数の人間が集まる場所で、不正な魔法が使われないよう見張っている。
 これに捕まることだけは避けたい……!

「そこのお二人。何をしているのですか?」

 足を動かすより早く、監視員がやってきた。
 人数は五人。
 ギルドから支給される制服をまとった彼らは、誰が見ても不正魔法取締りの集団だ。
「は?何って……いや、俺は別に何も……」
 予想していなかった事態に、男が混乱するのがわかる。
 なんだって急にこんな奴らが来るのか、全く理解できない様子だ。

「今ここで、魔法の気配がしましたが」
「は?待ってくれよ、俺は魔法なんか使えねぇよ!」
「貴君が使用したと、断言しているわけではありませんよ」
「じゃあ……」
 男の視線が向けられる。
 目深にかぶった帽子で視線は合わせていないが、鋭い眼光は布など通り越して彼を責めた。
「そうだ!こいつだ!見てくれよ、この腕!」
 男が、赤くなった腕を突き出す。
 一瞥して、監視員が「お大事に」と一言。
「なんだよその言い草は!」
「貴君がこの少年に危害を加えようとしていたのを、かなりの人が目撃していましてね。本来なら私どもより先に、警吏が来るはずだったのですが」
「……!」
 息を飲んで黙った男に唇の端だけで笑って、監視員は少年に視線を戻す。




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