初めて見るものばかりで、胸が躍った。


 足早に歩きながら、彼は店の多さに口を開いて感動していた。
 こんなにたくさんの店を見たことがない。

 活気のある声、人々の笑顔。
 色んな服の、色んな大きさの、人たち。
 あふれる光、色。

 世界はこんなにたくさんのもので出来ているのだと、彼は初めて知った。
 ここも、まだほんの一部でしかないことは、彼には想像もつかなかった。
 これが世界なのだと、自分は今世界を見ているのだと、そんな思いに心が弾んだ。
 数人しかいない店があり、あれ?と首を傾げると、そこには「案内所」という表示があった。
 迷子の保護もしているのか、奥のほうに小さな子供がちょこんと座っている。
 迎えが来て、彼も待っている人の元へ帰るのだろう。
 そう考えて、少し笑った。

 疲れを感じて、彼は長椅子の並べられた休憩所らしきところへ向かった。
 どこそこの何がおいしいとか、あの店の店員は愛想がないとか、好き好きに話している間を抜けて、一人がやっと座れるような隙間に腰を下ろす。
「よお」
 聞こえた声に、身体が強張った。
 まさか見つかったのだろうか。
「おお、どうだ?」
 隣に座った男が返事をする。
 全く関係がないとわかって、彼は肩に入った力を抜いた。
 過敏になりすぎだ。
「まぁ、この人ごみだ。迷子もいるし連れとはぐれた奴もいるし、それなりに忙しいな」
「……とか言ってるうちに、ほれ、あそこに困っている人がいるみたいだぞ」
 男の指差す先をチラリと見てみると、親子と思われる女性二人が、周囲を見渡して首を傾げている。
「おやおや、仕方ないな。案内所までご案内〜ってやつだな」
 言いながら片頬だけで笑って、来たばかりの男が歩いていく。
 その笑い方が、なんとなくイヤで。
 彼は立ち上がって、女性の方に走っていった。



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