人の多い大通り。
 数日をかけて行なわれる祭りのため、この町はあふれんばかりの人で埋め尽くされていた。

 特に人気なのが、各地方の名物を一堂に集めた、通称『名産天幕』である。
 その名の通り、大きな天幕の中に各地の名物が並ぶ。

 見ているだけでも楽しい、と若者からお年寄りまで多くの人が足を運ぶ。
 中には貴族もいるようだが、祭りの場では無礼講。
 特別扱いはされないので、顔を知らなければ気づくこともない。
 それは、お付きの苦労が増えるということでもあるのだが。

「……ディノール様のお姿が見えないが……」
 赤い髪の少年が、ぼそりと呟いた。
 仏頂面で、とても祭りを楽しんでいるようには見えない。
「……ルア、お前、見ていなかったのか?」
 隣を歩いていた青年が、ぎょっとした表情で彼を見下ろす。
 こちらは直前まで笑顔で店を眺めていた。
「さあ。俺は自分の身を守るだけで精一杯だ」
「小さいからな、お前。冗談に聞こえないところが怖いよ……」
「冗談を言った覚えはないから当然だな」

 そもそもルアは、この道中についてくるつもりなどなかった。
 ディノールと歳のそう変わらない彼は、背格好もあまり変わらない。
 遊び相手としてお屋敷にいる分には構わないが、こういった人の多い場所では護衛の邪魔にしかならないのだ。

「だいたい、こんなところにまで俺をつれてくるなんて、間違っているとしか思えない」
「何を言ってる。まだ正式に認められていないとはいえ、お前は剣も魔法も使える護衛として、ご主人に気に入られているんだぞ」
「護衛か……俺には、ご子息の遊び相手くらいの立場が相応しいさ」
 苦く笑って、ルアは青年の腰を叩いた。

「探そう、アルディア。何かあったら大変だ」
 ため息をついて、青年は頷いた。
 この少年の自虐的なところは、いつまでたっても改善されそうにない。
 護衛対象の能天気なまでの明るさの半分――いや欠片でもいいから、彼に分けてやって欲しかった。



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