零の旋律 | ナノ

 私は、私の時間が終わるその時まで貴方の元に跪きましょう
 貴方に不要だと切り捨てられるその時まで

「王子、今回の決算終わりましたよ」
「で、どうだったんだ?」
「えぇ、勿論王子の希望通りの結果です。微分も違わずに」

 王子の右腕であり懐刀の策士。少女のような面影を持つ少年は微笑んだ。腹に一物を抱えていそうな微笑みは実際に王子が出した案を可決させるために幾通りの策を練り、実行したことか。
 また何処かで死人が出ていればこの策士が手を下したのだろう。
策士は王子の為なら何だってした。手を下すことも平然と行い、策を練り相手を破滅へと誘う。

「そうか、カサネ……何人殺した?」

 問わずにはいられない質問。何かを望んだ分だけ代償があるなら、王子が望んだ分だけ他者の人生が策士によって狂わされる。

「さぁ、どうでしょうね。それを貴方が知った所でどうにもなりませんよ、私にとって王子が全てです。他がどうなろうが知ったこっちゃありません。貴方が望むものは全て私が手に入れて差し上げますよ」

 何処までも一途に、そして狂気を含んだ台詞に頭を抱える王子だったが、王子は策士を手放すことは出来なかった。
 王子の地位に拘りはない。元々期待されていなかった。
 策士がいるからこそ、王子は今のままで入れる。もし策士の罪が公のものとなる日が来れば王子は躊躇することなく策士と共にこの地を去る――と密かに決めている。狂っていたとしても――だ。

「では、私は執務室にでも行きますよ。今回の件の後始末をしなければなりませんから」
「やはり、殺したのか」
「大丈夫です。いくら私が怪しまれようとも痕跡は何一つ残していません。証拠はつかめませんよ、疑惑だけで私を捕まえることなど何人たりとも出来などしない」

 自意識過剰、大胆不敵ともとれる発言。だがそれは事実だった。例え城で大量殺人が行われようとも、犯人が策士だと疑惑を向けられても誰も策士を捕まえることは今まで一度たりともできなかった。疑惑の目をいくら浴びせようとも何一つ証拠を掴めない。
 どれだけ相手が殺されないように警備を固め、常に身辺に気を配っていても、策士が殺すと決めた相手は必ず死んでいた。策士の策通りに。

「では、失礼王子。明日も貴方の幸せと変わらぬ権威を祈って」

 策士は王室から立ち去ろうとする。
 一国の王ではないが、策士を手にした王子は次期王に最も近い存在とされていた。
 だが、王にならないと王子が告げれば明日にでも現王を殺し、第一王子を王へ仕立て上げるだろう。
 その怜悧な頭脳を持ち、不可能を可能へと導く。

「あぁ、そうそう王子」

 扉の前で、ふと思い出したことを策士は王子に一応告げた。

「なんだ?」
「最近侍女たちの間で勝手な妄想をされておりましたので、始末しておきました。貴方のもとへやってくる侍女は別人ですが、お気になさらずに」

 妄想した程度で殺される侍女を王子は憐れみ静かに目を瞑る。

「どんな妄想かはお気にしなくて結構ですよ、王子には一生関係のないことでしょうから」
「そうか」

 策士が関係ない、と言えばそれを知ることは一生ない。仮に王子がどんな妄想だが気になり調べようとすれば策士は王子が知ることがないように、王子が近づいたものを片っ端から暗殺していく。だから、王子はこの件に関しては何も言えない。言えば人が死ぬ。
 策士の手によって、顔色一つ変えられずに、淡々と。



「王子、私の唯一人の王よ」

 例え、どれ程の人を殺めても、どれ程の血で噎せ返ろうとも、どれ程恨みを買おうとも

「貴方に仇名す者は、全て私が闇に葬りましょう」

 汚れ事は全て引き受けましょう
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