零の旋律 | ナノ

「……んー」

 シオルのベッドの上で転がりながら悩む私を不思議そうにシオルは覗きこんできた。

「何悩んでいるんだ?」
「んー、エレテリカはそろそろ好きな人の一人や二人いないのかぁと思いまして」
「……」
「何、その意外そうな目」
「いや、お前がエレに恋人が出来るのを認めるとは思っていなかったから」

 失礼な。私は別にエレテリカを独占したいわけじゃないのですから、エレテリカに好きな人が出来れば私は応援しますよ。エレテリカが恋する様子が全くないから不思議がっているだけなのに意外そうな眼をされるのは微妙な心境です。

「エレテリカに好きな人が出来れば精一杯応援するに決まっているじゃないですか」
「……」
「だーから、なんでそんなお前はカサネ大丈夫かこいつ? みたいな目してんだよ」

 シオル相手に態々猫を被る必要はないし面倒になってきた。いや、他の相手にも猫を被っているわけじゃないけど。

「お前の口から応援だなんて……あくどさを感じない台詞を聞くとは思わなかったものでつい」
「お前は俺を何だと思っている」
「悪逆非道な策士」

 ……遠慮ないものいいは別に嫌いじゃない。だからこそ共犯者に選んだわけだし。

「まぁいいけど。……エレテリカが好きになる相手なら、俺はその双方の思いを尊重して応援するに決まっているだろう、まぁ外野が騒ぐようなら――」
「殺す?」
「懐柔する」
「は?」

 今日のシオルは容量が悪い。何故だ。

「例えば恋人の両親が反対したとして、その両親を殺したら恋人が悲しむだろうが。そしたらエレテリカも悲しむ。なら殺さないさ」

 あくまで障害になるのなら障害にならないようにやりこめるだけ。

「成程、そりゃそうだが……やっぱ駄目だ」
「何が」
「エレが恋する姿が想像出来ねぇ」
「なんでだよ」
「……そりゃまぁ色々」

 酒で酔ってでもいるのだろうか。俺はシオルが酔った姿見た事がないけど……シオルはザルだし。

「何だか今日のシオルは要領を得ませんね」
「それはお前のせいだ。お前が明日の天気は槍になりそうな事ばかり連発するから」
「……お望み通り槍をお前の部屋だけに降らせてやろうか」
「ははは、それは御免だ」

 笑いながらシオルは私にワインを渡してくれた。心境的には一気飲みしたいところだけれど、それは止めときましょうか。


▼後書き
カサネとシェーリオルの会話。
エレに好きな人が出来たら応援するのに、その気配が一向にないから不思議がるカサネと、それを不思議がるシオルの話。
余談ですが、カサネもシオルもお酒には強いです。特にシオル。

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